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応召義務と働き方改革【現状維持?見直し?撤廃?】

厚労省は7月18日に開いた社会保障審議会医療部会にて医師の応召義務について「現代における応召義務」に関する解釈通知を発出するとの方針を示しました。

応招義務があっても診療をしないことが正当化される事例を患者の症状の深刻度や迷惑行為、医療費の不払いなどのケースに応じて整理するということで早ければ今秋にも通知が出されるようです。

またそれには医療提供体制や医師の勤務環境に関する観点も考慮した「医師・医療機関が診療しないことが正当化される考え方」なども含む見通しとなっています。

医師の働き方改革は今後も様々な会議で議論されていくことになっていくと思いますが、そこにはタスクシフティング、地域医療構想、医師偏在対策なども当然リンクしておりどれも単独で答えが導き出せるようなものではありません。

全てが複雑に絡み合っています。

そしてこの応召義務というものも医師の働き方改革と深くかかわっています。

今回はそもそも応召義務ってどういうことなのか、将来的にどうしていくのがいいのかというところを見ていきたいと思います。

応召義務と働き方改革【現状維持?見直し?撤廃?】

結論

応招義務は本腰を入れて見直す時期に来ています。

そして応招義務単独で見直すことには無理があります。

働き方改革として複合的に他の課題と絡めて同時に進めていく必要があります。

応召義務

応召義務とは

応召義務とは、医師法19条1項に定められた「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とする義務のことです。

この医師の応招義務の根拠は医業の公共性と業務独占にあると説明されることが多いです。

もっとも医師の応招義務には罰則はありません。

そしてこの応招義務は医師が患者に対して負う義務でもありません。

これは医師が国に対して負う公法上の義務に過ぎません。

いうなれば訓示的、理念的な規程であって過去に応召義務違反を根拠に刑事責任、民事責任を問われた事例や行政処分が行われた事例などは見当たらないとのことです。

もちろん昔の医療提供体制が十分でない時代には、国民の生命、健康維持の為に応召義務が十分な意味を持っていましたが、救急医療を初めとする医療提供体制が充実し機能分化が進んでいる現代では、かつてとは応召義務の意味合いが変わってきているとの指摘があります。

この応召義務は1948年の制定から70年間改正されておらず、関連する通知も1949年と1955年のもののままです。

時代や社会が抱える問題が変わり応召義務が決められた時代と今の時代のシステムも変化しているのに全く変更もされないまま現在まで来ていることに対して現在検討や議論の整理ということが求められています。

応招義務の定義

医師側は応召義務を極めて厳格な規定であると感じており、これが為に過度な長時間労働が発生している可能性があるとも言われています。

たとえば夜間救急の輪番制が敷かれている地域において輪番以外の医師のもとを診療時間外に来院した患者に対して急を要しないと判断し輪番を告げることが応召義務違反に当たるのではないか、と恐れ自らが時間外診療に従事してしまうようなケースが考えられます。

今まで国からは応招義務の在り方についての明確な提示はありませんでした。

いわばグレーな状態だからこそ医師側が応招義務の呪縛から逃れられない状態が続いてきました。

ケースの明示

これを受け厚労省は研究班(「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究」班)を設置し応召義務とは何か(法的な意義など)、更にどういう場面で、診療を拒むことが医師法第19条第1項違反とならないのか(違反の恐れがあれば、医師は訴訟を恐れ、やはり過重な対応をしなければならなくなってしまう)などの検討を進めてきました。

そして今般「個別具体的な医療場面」及び「診療時間内か時間外か」に分けて「医療機関、医師が従うべき準則」を以下のように示しました。

 

【病状の深刻な救急患者など緊急対応が必要なケース】

▽診療時間内・勤務時間内

→諸般の事情を総合的に勘案しつつ、「事実上診療が不可能」と言える場合にのみ診療しないことが正当化される(診療が可能である場合には、診療しないことは不法行為と判断される可能性が高い)

▽診療時間外・勤務時間外

→医の倫理上、応急的に必要な処置をとる(求められる対応の程度は「心肺蘇生」法等の応急処置実施などにとどまり、診療所等へ直接患者が来院した場合には、必要な処置を行った上で病院等に対応を依頼することが望ましい)べきだが、診療しないことは、原則として「公法上・私法上の責任に問われることはない」と考えられる

【病状の安定している患者など緊急対応が不要なケース】

▽診療時間内・勤務時間内

→原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。ただし、緊急対応が必要なケースに比べて、「診療しないことが正当化される場合」は、諸般の事情や患者と医療機関・医師の信頼関係なども考慮して、緩やかに(広く)解釈される

▽診療時間外・勤務時間外

→即座に対応する必要はなく、診療しないことに問題はない(時間内の受診依頼、他の診察可能な診療所・病院などの紹介等の対応をとることが望ましい)

【患者の迷惑行為】

→従前の診療行為などにおいて生じた迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(診療内容そのものと関係のないクレーム等を繰り返し続けるなど)には、新たな診療を行わないことが正当化される

 

【医療費不払い】

→以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されないが、「支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない」場合などには、診療しないことが正当化される。具体的には、▼保険未加入など医療費の支払い能力が不確定であることのみをもって診療しないことは正当化されない▼医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないことなどは正当化される▼特段の理由なく保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には「悪意のある未払い」と推定される場合もある

 

【入院患者の退院や他医療機関の紹介・転院など】

→医学的に入院の継続が必要ない(通院治療等で対応すれば足りる)場合には、退院させることは正当化される。医療機能の分化・連携を踏まえ、病状に応じて「大学病院等の高度な医療機関」から「地域の医療機関」を紹介、転院を依頼・実施するなども原則として正当化される

【差別的な取り扱い】

→患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教等のみを理由に診療しないことは正当化されない。ただし「言語が通じない」「宗教上の理由などにより診療行為そのものが著しく困難である」などの事情が認められる場合にはこの限りではない

→その他、合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症など、制度上「特定の医療機関で対応すべき」とされている感染症への罹患(その疑いのある)している患者等はこの限りではない

厚労省はこうした研究班の報告を整理し近く通知等を発出し周知を図る考えを示しています。

救急患者等のみならずいわゆるモンスターペイシェント対策や未収金対策への効果も期待されます。

患者の意識改革

応召義務の在り方を考える時セットで考えなければいけないことが診療を受ける側の問題です。

これは医療機関側、患者側お互いの意識を変えていかないことにはなかなか進まない問題です。

患者側でいえば、「夜間救急の輪番制が敷かれている地域であれば当番医にかかる。またその情報を自らも求める」「緊急を要しない時間外診療などは避ける」などごく当たり前ともいえるモラル、受診意識を植え付けていかなければいくら医療機関側が応招義務を体系化し判断の整理を行っていても何の意味もなさなくなります。

近年モンスターペイシェント対策は非常に重要でまた昔に比べて明らかにそのような患者の割合は増えていると実感します。

その原因の1つにこの応招義務の問題が関係していることは間違いないのですが、最も重要で最も困難なのがこの患者サイドの医療機関のかかり方の意識改革です。

この部分を国がどう考え進めていくのかも今後注目する点です。

まとめ

制定から70年余り改正されていない古い法律ではもう今の社会のシステムに対応出来ていないと思われます。

断る正当な理由の定義が曖昧なままここまで来ていますが今回ケースの例示がされたとしても実際類似のケースが出てきた時にはたして診療拒否と出来るかと言われればかなり難しいと思います。

これは応招義務の定義をもう少し明確にとかというレベルではもうとても対応出来る話ではないのです。

これは冒頭でも述べましたタスクシフティング、地域医療構想、医師偏在対策に加え、患者側の意識改革、社会のコンセンサスなど様々な問題を同時進行で進めていかなければ解決に向かわない問題です。

そう考えると今回の件はまだその第1歩ではありますが今後につながる大いなる1歩だと願いたいです。

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