これから2020年度の次期診療報酬改定に向けての議論がいよいよ本格的になっていきます。
次期改定では
①入院料の「診療実績に応じた評価」部分の評価指標・基準の見直し
②外来医療の機能分化の促進
③在宅医療の供給量の確保
④オンライン診療の拡充
⑤働き方改革の推進
などが主要な論点となります。
2012年以降の医療制度改正や診療報酬改定は2025年モデルの実現を念頭に進められてきました。
2025年に向け実質的に最後の診療報酬、介護報酬同時改定となった前回改定では入院料全般が再編、統合されました。
これを受け次期改定ではラストスパートとしてあるべき医療提供体制の整備が進むとみられています。
具体的には入院料の「診療実績に応じた評価」部分の評価指標・基準の見直しとして重症度、医療・看護必要度の該当患者割合の引き上げや評価項目、評価方法の見直しが検討されていくと予測されます。
また紹介状なしの受診時定額負担の徴収の義務づけ対象が拡大される可能性が高いです。
前回改定では地域医療支援病院の要件が許可病床数400床以上に拡大されましたが次回改定ではそれが300床、もしくは一気に200床まで拡大される可能性すらあると言われています。
この2点に関しては確実に見直し、変更してくると言われています。
そしてもう1点かなり可能性が高いと言われているのがDPCの退出ルールです。
そして先日DPCについて検討する分科会が開催されDPC制度改革についての議論がなされました。
今回はその内容も含めDPC制度の在り方についての検討内容を見ていきたいと思います。
目次
【2020年度診療報酬改定】DPCはどうなる?
結論
DPC退出ルールの導入は可能性が高いと思います。
そしてそのほかの議論も今後を見据えると非常に興味深いものとなっていくことでしょう。
DPC制度改革
入院医療分科会
診療報酬改定の内容は最終的には中央社会保険医療協議会総会で決定されます。
ただし、その内容は非常に広範な為、分野を絞った調査、分析、技術的課題の整理などを下部組織で行いそれを踏まえて中医協総会で具体的な改定議論を行うことになっています。
現在の入院医療分科会(正式には診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」)は以前の入院医療分科会とDPC評価分科会が統合された組織です。
現在2020年度診療報酬改定に向けて入院医療とDPC制度改革に関する技術的課題の整理を行っています。
そして入院医療分科会の下に(1)診療情報・指標等作業グループ(2)DPC/PDPS等作業グループの2つのグループを設けそこで専門的な調査・分析を行うとしています。
7月25日の入院医療分科会では、DPC/PDPS等作業グループにおける議論の状況報告及び2018年度診療報酬改定の影響に関する調査・課題等の整理(地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟など)が議題となりました。
その中で今回はDPC/PDPS等作業グループにおける議論の状況報告にフォーカスして見ていきます。
DPC対象病棟からの転棟について
例えば「胸椎、腰椎以下骨折損傷 (胸・腰髄損傷を含) 手術なし」(160690xx)症例についてDPC病棟に入棟してから何日後に地域包括ケア病棟へ転棟しているのかを見ると「入院9日目」の転棟が突出して多くなっています。
この背景には、「DPC点数」と「地域包括ケア病棟入院料の点数」との関係があるようです。
DPCでは、診断群分類ごとに、入院期間に応じた3区分の点数が設定されています(在院日数の短い上位25%までの「期間I」、平均までの「期間II」、平均+2SDまでの「期間III」、以降は出来高となる)。
「胸椎、腰椎以下骨折損傷 (胸・腰髄損傷を含) 手術なし」(160690xx)については、「期間I」は8日とされ3014点が算定できますが、9日目以降の「期間II」は2271点に算定可能点数が下がってしまいます。
一方、地域包括ケア病棟入院料の点数を見ると、入院から14日までは「入院料2」(DPCでは大規模な急性期病院が多く、入院料2を届け出る病院が多い)では2708点(初期加算150点を含む)、また「入院料1」(200床未満で在宅患者受け入れ割合などの高い病棟)では2888点を算定できます。
この為「点数の下がる(DPC<地域包括ケアとなる)9日目にDPC病棟から地域包括ケア病棟に転棟させる」ケースが多いのではないかと推測されます。
このような転棟は病院経営的には理解出来るものの患者の状態にマッチした病棟での入院という観点ではいかがなものかということです。
病棟の機能分化、診療報酬の設定という観点からすれば急性期病棟での治療の必要性が薄くなり地域包括ケア病棟での入院が望ましいとする患者の状態に合わせるのであれば入棟から特定の日に転棟が集中することはないのでは、ということらしいです。
作業班は点数設定方法により「DPC病棟の入棟期間が長くなるケース」(DPCの期間Iが長い場合や、DPC期間IIの点数が高い場合など)、「DPC病棟の入棟期間が短くなるケース」(DPCの期間Iが短い場合や、DPC期間IIの点数が低い場合など)があるとし今後、「病院ごと」に「DPC病棟から地域包括ケア病棟等に転棟する症例の違い」を詳しく分析、検証していく方針を示しています。
この議論については厚労省がどういう着地点を理想としているのかがよく分かりません。
この中で言われていることはDPC、地域包括の両方を持っているケアミックス病院では当然行っている運営です。
しかしそれをもって「点数のみに着目したDPC病棟からの転棟」と言われれば確かにそうかもしれませんがそうなることは分かっていたでしょと思う訳です。
地域包括ケア病棟入院料を創設した時点でDPCをからめると病院運営としてはこうなることは目に見えていたはずです。
それを患者の状態にマッチした病棟での入院という観点では疑問符がつくと言われてもそれはほんとに建前論だと思います。
今後どういう議論でどういうゴールに持って行こうとしているのかが気になるところです。
DPCの退出ルールについて
これは以前からあがっていたDPCへの参加が不適切な病院について退出も含めた制度での対応を検討してはどうかということです。
具体的には「診療密度が極めて低く」かつ「平均在院日数が著しく長い」ような病院がその対象とされています。
たとえばDPC点数は該当症例に対する医療資源投入量の平均として計算されますが著しく診療密度が低い病院が参加すれば平均値が下がり、DPC点数も低く設定されることになります。
この場合適切な医療資源を投入している病院の評価が低くなることを意味します。
またその一方、医療資源投入量が少ない病院では点数と実際の資源投入量との差が純益になる為、他病院との間で不公平も生じかねません。
こうなるとDPC制度の信頼性を揺るがすことにもつながりかねません。
今後作業班は詳しい分析を行った後DPCからの退出ルール等を設ける必要があるのか、設ける必要があるとしてどういった仕組みとするのかなどを検討するとのことです。
医療の質
これはDPC病院において医療の質に関する要件を設定すべきか否かというテーマです。
医療の質の向上は全ての医療機関に求められるテーマで特に急性期医療の大部分を占めるDPCでは重要命題の1つです。
作業班は「有用な指標もあるが指標で評価出来る診療内容が限定的であることなど課題もある。
DPC対象病院の要件に適用することは慎重に検討する必要がある」との慎重論を示しています。
まとめ
DPC制度が導入されて結構な時間が経ちましたがDPCは常にバージョンアップを余儀なくされる立場にあり、今後もそれは変わりません。
もはやDPC単体で変わることは不可能で地域医療構想しかり、機能分化論しかり時代のニーズにマッチしていく為には他の制度、ビジョンにコミットし続ける必要があります。
この先告示されるまで間に様々な議論が行われますが今後の動向に注目し続ける必要があります。
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