昨日の記事に引き続き今回もタスクシフティングについて見ていきます。
先日の7月26日に第3回医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリングが開催され、「タスクシフトの具体的な業務内容・量・質」「タスクシフトを推進するための実務上の諸課題等」「国内外におけるタスクシフト先進事例の紹介、タスクシフトに係る国際比較等」について6団体からのヒアリングが行われました。
ヒアリングは同日を含め3回開催されておりこれまでに日本医師会など24の医療関係の職能団体や基本領域学会が意見を陳述してきました。
そして今回で厚労省が予定していた計30団体からの意見聴取が終了しました。
その中のタスクシフト先進事例で次のことが示されていました。
・海外では20年以上前からタスクシフティングが進んでおり、診療のカルテ記載、ICなどの記載を医師がボイスレコーダーに入れて事務が記入というシステムが行われていた
・医師が術録をボイスレコーダーに録音し、事務が記載を代行
そしてまた日本外科学会が示した外科医師業務低減への希望タスクシフト(医師→事務職)では次の事項がありました。
・診療録(カルテ)への記載
口頭説明内容等をdictateあるいはボイスレコーダー活用にて
(外来診記録、病棟回診記録、手術録)
ここで聞き慣れないdictateなるものがありました。
ディクテートまたはディクテーションという言葉は普段あまり聞くことはないですがそもそもこれは何なのか。
タスクシフティングとどう関わっていくのかを見ていきたいと思います。
目次
【タスクシフティング】ディクテーションって何?【医師事務作業補助】
結論
人材育成、養成プロセスの標準化そしてその人材自身の学ぶ姿勢が必要です
ディクテーション(dictation)
ディクテーションとは
そもそもディクテーションとはどんな意味なのかを見ておきます。
ディクテーションとは言葉を聞いて書き取ること、または聞いて書きとったもの、ということが原義であり簡単に言えば口述筆記となります。
カルテ・ディクテーション
医師が事務作業の負担軽減業務として最も要求度の高いものの1つに診療録の代行入力があります。
これをカルテ・ディクテーションと呼んでいますがわが国における導入事例は多くはありません。
一方米国では専門職におけるカルテ・ディクテーションは広く一般的に実施されておりこのカルテ・ディクテーション業務でメディカル・トランスクリプショニストという専門職が存在します。
ディクテーションの方法
基本的には医師が音声を録音しそれを入力者が聴きタイピングする、というスタイルをとります。
わが国の導入事例はまだまだ少ないですが実際導入しているところもあります。
たとえば訪問診療を行っているところでは医師は訪問診療後、移動の車中でスマートフォンに診療報告を録音して音声データをクラウドにアップロードしそれを医療知識を持つ潜在看護師のスタッフがテキスト化するという形です。
ディクテーションのメリット
メリットには下記のことがあります。
・診療に専念できる
・患者と向き合う時間が増える
・待ち時間の短縮
・診療可能な患者数が増加
・電子カルテ入力ストレスの軽減
・診療録の充実
・診療内容の充実
・患者サービスの向上
・業務の円滑化
医師は診察中診療に集中出来る為、常に患者の方を向いて話すことが出来ます。
そして話す方が打ち込むより早いのでカルテの内容も充実します。
また自分でタイプするとどうしても難解な略語が増えますがディクテーションだとより分かりやすい文章になります。
簡単な文法間違いなども直されるのでしっかりとしていて読みやすい文章となります。
ディクテーションの課題
これは入力者の能力、技術開発と人材育成の構築につきます。
ここまで見てきて分かるように音声を聴いて入力出来れば務まるというようなレベルの業務ではありません。
具体的に必要な能力は何かというと、
①パソコン操作スキル
②タイプ速度
③医療用語の知識
④文章能力
⑤治療方法の知識
です。
特に医学的な知識がないと全く務まりません。
そしてそのような人材を養成するにはかなりのコストと時間がかかると推測されます。
そのようなこともあり米国では外注化が進んでいるとのことです。
タスクシフティング
タスクシフティングの現況
現在のタスクシフティングの状況は次のように報告されています
・診断書等の代行作成、主治医意見書の代行作成は良好
・診療記録、処方箋、検査等の予約オーダリングシステムの代行入力は低め
・症例登録等は少ない
タスクシフト推進に関する課題
事務職へのタスクシフト推進の課題には以下のことがあります。
人材確保:負担が過剰となる恐れが多分にあり必要な人員確保が必要となる。
教育方法:教育、指導方法や研修の標準化。成功事例の共有と研修システムの構築が必要。
個人情報:個人情報の取扱いと情報漏洩防止に関する教育、指導の徹底が必要。
スキル:一定以上の訓練が必要。研修や試験を課すことなども視野に入れる。
まとめ
今回のディクテーションのほかにも事務職へのタスクシフトの有効性が高いと考えられているものには以下の事項があります。
・入院診療計画書の下書き
・保険用書類や診断書の下書き
・基本的検査や輸血に関する説明/同意書取得(特殊検査を除く)
・施行する検査の枠や次回外来枠の予約取り(患者との日程相談)
・クリニカルパスの入力
・臨床研究等の研究計画書の下書き
ディクテーションの課題のところでありましたがこれらにはいずれも医学用語をある程度学習した事務スタッフの育成が必須です。
でないとタスクシフトは出来ません。
となると結局昨日の結論と同じことになります。
つまり人材育成、養成プロセスの標準化です。
そして資格化も含めた技能水準を評価する枠組みの創設が急務なのです。
これは国として制度面、環境面をしっかり考えてもらわないといけないことですが、事務側としてもタスクシフティングの意味あいをしっかり考えておかないといけません。
そしてつまるところ日頃医療事務について私が言っていることと同じになります。
つまり常に学び続ける姿勢が必要だということです。
その道のプロフェッショナルを目指すということはどこまでいってもゴールなんてないのです。
日々医療界は動いていて、日々この先の医療制度は話し合われていて、日々いろんな患者さんが来院してきます。
その中で働くにあたって現状維持なんてありえないのです。
昨日の情報はもう古い、昨日の知識はもう役に立たないという気構えでないとこれから先の時代の流れには追いついていけません。
今回紹介したディクテーション自体は今後導入の広がりをみせるのかどうかは分かりません。
音声入力、AI化によってもはやディクテーション人材の養成需要があまりないという状況もありえます。
またその必要性があったとしても日本語による医療教育を受けた人件費の安価な海外への外注化によって人件費の高い国内における専門職養成の市場競争力が働かない可能性も大いにありえます。
そうだとしてもだからこそ予測不可能な未来に向けて学び続けるという姿勢は崩してはいけないのです。