当院は回復期リハビリテーション病棟があるケアミックス病院です。
診療報酬改定の時期になると毎回DPC病棟と同じくらい回復期リハビリテーション病棟の改定議論を注視しています。
そして最近も回復期リハビリテーション病棟についての議論がありました。
今回はその議論を見ていくとともにリハビリテーションと診療報酬というものを見ていきます。
ごまお
リハビリテーションとアウトカム評価と診療報酬![]()
結論
診療報酬制度は性善説でできています。それを忘れないことです。
リハビリテーションとアウトカム評価
リハビリテーション実績指数
9月5日に開催された診療報酬調査専門組織である入院医療分科会では回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価についての議論がありました。
近年の診療報酬改定における入院医療の評価というのはどれだけの重症患者を受け入れているのか(重症患者割合)とどれだけの診療実績を上げられたのか(アウトカム評価)が非常に重要視されています。
前回の診療報酬改定でもこの重症患者割合とアウトカム評価を基本とした大幅な報酬体系の組みかえがなされました。
そして回復期リハビリテーション病棟では2016年度改定で導入された「リハビリテーション実績指数」を評価指標としています。
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大まかにいえば「入院から退棟までにどれだけADLが改善したか」を数値化したもので、回復期リハ病棟入院料1→37以上、回復期リハ病棟入院料3→30以上、回復期リハ病棟入院料5→30以上という基準値が設定されています。
そしてリハ実績指数の計算には患者のADLの状況を数値化するFIM(Functional Independence Measure)が用いられます。
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退棟時のFIMと入棟時のFIMとの差である「FIM利得」が大きいほど患者のADLが改善しており効果的なリハビリテーションを実施していたとの評価になります。
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実績指数の計算式から見ると実績指数を上げるための方法は次の2点となります。
①FIM利得を増やす
・良く言われるのは術後や発症後の早期受入・介入です。
・早く介入すれば機能は改善しやすいと言われていて、実際にその傾向が見られるとのことです。
これは回復期リハビリテーション病棟協会や様々な学会、厚生労働省等でそれを示唆する資料が出ています。
②在院日数の縮小
・分母が小さくなるので実績指数は上がります。
そして現状ではほとんどの回復期リハ病棟が基準値を余裕でクリアしています。
この点を中医協では「基準値が低すぎるのではないか」として検討事項としていました。
不適切なFIM評価とクリームスキミングの疑義
今回の入院医療分科会では基準値が低すぎるといった議論よりももっと根本的なことに注目しています。
それはFIMの適切な評価とクリームスキミング(いいとこ取り)です。
つまり
入棟時のFIMを不適切に低くつけているのではないか?
FIM利得が大きくなるであろう患者を選別している(クリームスキミング)のではないか?
ということです。
これはデータが示していて、2016年度改定で実績指数が導入されてから入棟時FIMが低下していてその結果FIM利得の拡大へつながっています。
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ここから生じる疑義が不適切なFIM評価とクリームスキミングなのです。
今後FIMの適正な評価が行われているか(とりわけ入棟時)、不適切なクリームスキミングが行われていないかなどを分析していく可能性が出ています。
アウトカム評価のデメリット
これは2016年度改定時にすでに
「医療機関が病状の軽い患者や症状を改善しやすい患者ばかりを集めてリハビリを行うクリームスキミングが生じる可能性がある」
との懸念を当時の厚労省医療課長が示しています。
そして今回の分科会では「アウトカム評価にはクリームスキミング等がつきものであるが、現状は深刻ではない」「人間が評価をするもので、どちらか判別が難しい部分については経営的に好ましい方向に評価が行われることも一定程度やむを得ない」との意見も出ています。
ある意味アウトカム評価のデメリットは織りこみ済みとも受け取れますが、それも一定の限度があり行きすぎてはいけません。
リハビリテーションと診療報酬
回復期リハ病棟も地域包括ケア病棟と同様包括化されるのではとも言われています。
そうせず回復期リハ病棟の特徴、メリットを全面に押し出していこうとするのならば診療報酬にて点数の濃淡を明確につける必要があります。
そのために変更すべきとされるのは次の2点です。
1.入院期間に応じた点数設定
回復期リハビリテーションというからにはより重篤な状態の患者を受け入れるべきでありそれを実現可能にするための点数設定が必要です。
2.アウトカム評価の徹底
そもそも回復が見込める患者に対して集中的にリハビリを実施すべきでありその部分をもっと特化すべきです。
また早期リハビリが有効だとするのならば365日体制は維持すべきです。
365日体制で重篤な患者に集中的に対応する病院をより高く評価すべきです。
また実施した単位数だけ報酬が支払われるという仕組みではなくアウトカム評価を疾患別リハビリテーションにも組み込むことが必要です。
ごまお
まとめ
リハビリテーションは多顎の設備投資は必要なくてマンパワーで患者のアウトカムを改善できるというすばらしい診療行為であり診療報酬です。
現在はまさに量から質への評価に軸足を移している過渡期ともいえます。
より質の評価を高めるために現場のセラピストと請求の事務サイドも連携を密にして運用していく必要があります。
ただ1点注意すべきは「不適切なFIM評価とクリームスキミングの疑義」の問題です。
診療報酬制度は完全に性善説に立っています。
性善説
(人の本性は善であり)人を信じるべきだという考え方
性悪説
(人の本性は悪であり)人は疑ってかかるべきだという考え方
回復期リハ病棟のアウトカム評価の場合FIM評価や患者の選定などには事務サイドは直接関与しません。
その結果値の分析は行ってもそもそもその前提には評価値や選定方法は適正であるという性善説ありきで全ては動いています。
今回データで明らかに2016年改定後より入棟時FIM値が低くなっているということが分かりました。
これは検証してみないとはっきりは言えませんが、少なくとも自院の状況を確認しておく必要はあると思います。
セラピスト一人ひとりのFIM評価は標準化されているのか、FIM利得を考えて患者を選別してはいないか。
回復期リハビリテーション病棟入院料が2→1になることで患者ひとり当たり1日600円の増収です。
そのためにリハビリテーション実績指数に常に注意し病棟運営を行います。
ですがその数値にばかりに気をとられるとそれは危ない面があるということです。
実績指数のもとになっている数値がそもそも合っているの?というところが重要だということです。
そして実績指数ありきの運営に偏っていないか?ということです。
診療報酬制度はそもそも性善説でできているので常に足元を見る、基本理念に立ちかえるということがとても大切です。