厚労省は9月11日に「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」の第1回会議を開催しました。
そして個人が健康診断結果や服薬履歴などの自身の健康情報や医療情報等を正確に把握する仕組みであるパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の整備に向けた検討を開始しました。
2020年夏前には実現に向けた工程表を取りまとめる予定とのことです。
最近注目を集めつつあるこのPHRですがそもそもどういったものでこの先どうなっていくのかというところを今回は見ていきます。
ごまお
目次
【医療情報管理】PHRの今後とは?【PHRのある未来】
結論
今後の医療においてPHRの活用は必要ですがその進みが遅いのが実情です。
普及させる前提として活用基盤の構築、エビデンスの蓄積、情報リテラシーの向上が必須です。
PHRについて
EMRとEHRとPHR
まず先に用語を確認しておきます。
ここでは3つ紹介しておきます。
EMR(Electronic Medical Record)
電子カルテシステムを中心とした病院情報システムに蓄積された診療情報のことを指します。
要するに院内で使用することを目的とした電子カルテシステムです。
EHR(Electronic Health Record)
ネットワークを活用し国民一人一人の生涯にわたる健康医療を電子的に記録し蓄積された患者データを地域間で健康保険情報を共有される電子カルテシステムです。
EMRが閉鎖的な電子カルテに対しEHRはよりデータの活用を目標とし広義の意味での電子カルテといえます。
PHR(Personal Health Record)
病院が患者個人のデータを管理するのではなく患者が主体となって自らの患者データを管理するシステムです。
政府ではPHRを推進しており「どこでもMy病院」を構想しています。
「どこでもMy病院」とは健康保険情報を病院のみで管理するのではなく患者個人で管理および確認することを可能とし実現すれば全国どこの医療機関へ受診しても過去の保険情報を参照することが可能になります。
国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会
先日初会合が開かれたこの検討会では人が一生涯の医療・健康情報を自ら管理できるPHRを実現するための工程表を来年夏までに取りまとめとのことです。
PHRの対象とする情報は健診・検診情報に限り電子カルテなどの診療情報は含みません。
この日の会合で厚労省はPHRの定義を「個人の健診結果や服薬履歴等の健康等情報を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み」と明示しています。
世界と日本
欧州各国や米国、シンガポールなどでは既にPHRの活用が始まっており患者が自分自身の医療・健康情報を把握したり医師がそれらの情報に基づいてより適切な医療を提供したりするのが当たり前になっています。
欧州各国でPHRが活用されている背景として医療情報の提出が病院に義務付けられるなど国が主導して医療情報データベースを構築している点が挙げられます。
国が主導することで国民の間では医療情報は収集され活用されることが当たり前のこととして受け止められています。
国がPHRを主導していない米国では民間病院が患者サービスとしてPHRを提供していますが患者も医師も積極的に活用しています。
米国は医療費が高額で日本のように病気になれば気軽に医師に診てもらえるわけではないため、患者の予防意識が強く自分の病気や健康状態について知りたいという人が多いのが理由の一つです。
一方、国内に目を向けてみるとPHRはほとんど活用されていません。
世界的にはPHRの活用が標準となっているのと比較して日本の進みは非常に遅れています。
進みが遅い理由
・国が考える目的や意図が分かりづらい。
・議論が不十分でコンセンサスが得られていない。
・PHR推進が国民の健康づくりにつながるというエビデンスがない。
・国民一人ひとりが自身の健康に気を配るというリテラシーがまだまだ低い。
・どういう仕組みにしていくのかという点が詰められていない。
・個人情報保護への懸念。
・情報漏洩リスク、セキュリティへの懸念。
・閲覧する患者のリテラシーへの懸念。
PHRの未来
PHRの必要性
今後
・国が主導する医療情報データベースの構築が進み欧州各国のようにPHRを活用する環境が整備される
・医師にみてもらいにくい環境になり患者自身で病気の予防に努める必要性が高まる
などの環境変化が起こればPHRの活用が進む可能性はあります。
病院再編や医師の働き方改革が進んだ結果みてもらいたい時に医師がいない、という状況は今後地方では起こりうることです。
土日や夜間に受付をしてもらえなくなり平日にわざわざ休みを取り病院で長時間待たされるようになるかもしれません。
そうなった場合、たとえばインフォームドコンセントで医師から説明を受けるだけであれば病院と会社をITでつなぎ勤務中の空き時間を使って効率よく説明を受けたいというニーズが高まるかもしれません。
その時には手元に自分の医療情報があった方が医師の説明に対して理解が深まるため、PHRの必要性は高まります。
スマートフォンやタブレットであらゆる情報を入手することが当たり前になっている現状を考えればこのようなニーズは潜在的に十分にあると考えた方が自然です。
PHRを活用するには
現在日本には山のようなEMRとEHRデータが存在しています。
これは研究などでの利活用が期待されてきましたが利用に当たっての患者の同意が取られていないことで思うように進んでいないのが現状です。
重要なのが個人情報保護とのバランスです。
たとえば台湾では2000年代に国主導でポータルサイトへの健診、医療関連の情報集約が進みましたが近年個人情報保護の観点からデータの二次利用が厳しく規制されるようになり研究での利用が難しくなりました。
個人情報を守りつつ活用されるPHRの仕組みをどのように構築するのか。
要はこの点をクリアにできないとPHRを普及させていくことは難しいのです。
PHRの機運
上で述べたとおり医療機関にはデジタル化された個人の健康・医療データはあるもののそれは他の目的で利用できる状態に現状なっていません。
しかし今PHRの活用に注目が集まってきています。
それはスマートフォンやIoT技術の普及により自分自身の血圧、心拍数、歩数などのバイタルデータをウェアラブル端末経由で自分でも簡単に取得、管理できるようになった技術革新のおかげです。
今後人は日々測定されそのデータは蓄積されていくようになっていきます。
その時PHRを活かすも殺すも今後のビジョンと仕組みをどうするかに大きく左右されるわけです。
まとめ
個人の医療情報をビッグデータとして集約できれば医療研究の進歩にもつながりPHRに期待する部分はとても大きいです。
PHR普及のためにはまずその大枠の仕組みをどうするのか、またエビデンスによる裏づけ、個人情報保護などの情報リテラシーの向上など解決すべき課題はまだまだ多いです。
ですがPHR普及の流れには確実に向かうわけでその歩みは注視しておくべきでしょう。
ごまお