昨日の記事ではこれから益々予防医療が大事になってきますよということを書きました。そしてそれには生活習慣病にならないようにすることが大事なことですとも書きました。
その中でも今回は肥満について食生活、ダイエットという点を中心に述べていきたいと思います。
肥満とは
肥満であるかどうかは体脂肪量によりますが指標としてはBMI(Body Mass Index)が世界的に広く用いられています。
日本ではBMI25以上を肥満としています。これは日本肥満学会が定義した基準で、日本人はBMI25を超えたあたりから、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧といった合併症の発症頻度が高まることが理由だからです。
BMI指標で見ると日本の肥満者割合は男性が約30%、女性が約20%です。そしてこの割合は昔に比べて増加してきています。
これは明らかに過剰なカロリー摂取、乱れた食生活といった現代社会の食の多様性が引き起こした結果とも言えます。
ダイエットって意味あるの?
メディアをはじめとしてありとあらゆる所で連日のようにダイエットが話題となります。
ですがどれもこれもどうやったらすぐに痩せられるかだとか、楽に痩せられるかだとかばかりで短絡的なものが非常に多いです。
そもそも痩せる為にはじわじわ痩せないと必ずリバウンドします。
研究結果ではダイエットを試みた人の約95%がリバウンドするとのことです。研究者の中にはダイエットとは体重を増やすことを指すと言う人がいるぐらいです。
こういった点から見てもダイエットはするだけ無駄なのです。というか失敗する度に更に太っていくので逆効果です。
そもそもどうやったら痩せるのか?
痩せるメカニズムは至極簡単で消費エネルギー>摂取エネルギーとなっていればいいだけです。
これは誰しも知っていることなのですが、ここで1つ落とし穴があって人間はカロリーを低めに見積もってしまうということです。
平均で2割引きぐらいで見積もってしまうとのことで太っている人は3~4割低く見積もるとのことです。ですので痩せない1番の原因は食べ過ぎている、要はそこなのです。
ここで知っておいてほしい考えがあります。それはセットポイント理論です。
セットポイント理論とは?
これについてはTED Global2013にてサンドラ・アーモット氏がプレゼンしており分かりやすいと思います。
簡単に説明します。セットポイントとは脳が自動的に一定の体重を保とうとする仕組みのことです。
脳は空腹感と代謝という2つの武器を使って全力で元の体重をキープしようとしています。
現在の肥満学の考え方では、本来人間はスリムな体型を保つように出来ているとされています。古代の狩猟採集民は食欲のおもむくままに食べていたのにもかかわらず太った人はゼロでした。
要するに、もともとのセットポイントに逆らわない自然な暮らしをすれば人間は自然に痩せた状態をキープ出来るということです。
逆に言うと現代人の生活がセットポイントを乱しているから太るのです。
セットポイントが上がる原因
1番の原因は食事報酬の高さです。
要するに美味しいものを食べるから太るということです。
本来食事とは生命維持のカロリー摂取の為に行います。ですが現代では
美味しいものを食べる→脳の報酬系が刺激される→快楽物質ドーパミンが出る→もっと食べたくなる
というようにカロリーはもう十分足りているのに食べてしまうということが起こってきます。
2つ目の原因は食事の多様性です。
食事のバラエティが豊富になるほど脳が必要以上に喜んじゃって食欲が増してしまいます。
3つ目はよく眠っていないことです。
人間の体内時計は脳の視床下部がコントロールしていますが、そこが乱れると報酬系が壊れて食欲が異常に増します。
また、睡眠時間が足りないと体が生命の危険を感じて脂肪貯蓄モードに入ってしまいます。
4つ目はレプチン抵抗性です。
レプチンとは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食欲を減らす効果が高いホルモンです。
このホルモンが脂肪細胞から血液中に放出され、脳の満腹中枢を刺激し、食欲を抑える仕組みとなっています。
しかし、このレプチンに対する抵抗性(脳がホルモンの刺激に無反応)があると、満腹感がない状態になります。ですので肥満の人は脳がレプチンに反応しにくくなっていて見た目は太っているのに脳の中は飢餓状態になっています。
原因はいくつかあってグルテン(小麦に含まれるタンパク質の一種)の摂りすぎやオメガ6(大豆油やキャノーラ油など)の摂りすぎ、トランス脂肪酸(マーガリンや市販のドレッシングなど)の摂取等が挙げられます。
また慢性的なカロリー制限も原因の1つです。カロリー制限の状態が続くと
1.甲状腺ホルモンが減っていきます。甲状腺ホルモンは代謝のスピード(脂肪の燃えやすさ)をコントロールするダイエットの超重要因子です。これが減ってしまうと基礎代謝もどんどん下がっていきます。
2.筋肉が減っていきます。エネルギー消費が大きいのでカロリー制限が続くと脂肪よりも筋肉を減らそうとします。
3.空腹感に襲われます。そうなると自分でも気付かないうちに行動がコンパクトになっていき益々消費カロリーは減っていきます。
つまり強引にカロリーを減らすと脳と体が総がかりでエネルギーの節約を始めてしまいかえって痩せにくくなっていくのです。
これはあくまで強引に食べたいものを我慢した場合のことです。脳と体をなだめつつ自然に食欲を減らす方向にもっていけば空腹や筋肉の減少に悩むことなくカロリーを減らして痩せることは可能です。
その最重要ポイントが脳のセットポイントとなります。
セットポイントを下げるには?
1.無理なカロリー制限はやめましょう。
とにかく体が要求する分だけはきちんと食べましょう。でもそれはあくまでおなかが空いた時だけであって、暇つぶしや快楽の為に食べるのはやめましょう。そしておなかが一杯になったらやめましょう。
2.食べたいのを我慢するのはやめましょう。
それは絶対続きません。かえって反動が来ます。食べたいのを制限したい時は置き換え法をお勧めします。
甘いお菓子が食べたくなったらフルーツやさつまいもを食べるだとか、ポテトチップスが食べたくなったら茹でたジャガイモに塩をふって食べるとかという方法です。
3.しっかり眠りましょう。睡眠の改善は痩せる為の第1歩です。
4.動きましょう。
1日中座りっぱなしは肥満のもとです。基本的には軽いウォーキングのように毎日何かしら動きましょう。
まとめ
はっきり言ってダイエットは太るもとです。メディアの情報にいちいち反応するのはもうやめましょう。
セットポイントを下げる為には?に挙げた事柄はそのまま読むとすごい当たり前のことしか言っていません。
しかしその当たり前のことが現代人は出来ないのです。
それは食べ物に溢れている現代の文明病ともいうべき側面でもありますが、未来の自分への想像力の欠如、甘さでもあります。
今のこの食生活が10年後20年後の自分の体にどのような影響を与えているのか、もっと真剣に考えていかないといけません。
患者さんに痩せないといけませんと言っている医師本人が太っているなんてことはよくある話です。
みんなどこか人ごとなのです。そしていよいよ身に迫る事態になって初めて真剣に考えるのです。でもそれじゃ遅すぎます。
もっと前に出来ることはあったのにということになるのです。
予防医療というとちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、当たり前の生活で太らないでおこうとなればこれは出来ない話ではありません。
そしてそれこそが予防医療の第1歩です。
個人個人それぞれが正しい情報と正しい判断で自らの予防医療を進めていって頂きたいと思います。