救急医療係数と救急医療管理加算、この2つは病院収益に直結する非常に重症な項目です。
ここについては以前に記事にしました。

今回はその中でも救急医療管理加算にフォーカスします。
ごまお
目次
判断基準はコレ!救急医療管理加算の算定要件とは?
結論
十分な検証分析及び自院の明確な方針決定が重要です。
救急医療管理加算
救急医療管理加算とは
緊急に入院を必要とする重症患者に対して救急医療が行われた場合に入院した日から起算して7日に限り算定できる加算となっています。
加算1(900点/日で7日限度)は次のアからケの9項目に指定された重症者の状態が条件になっています。
加算2(300点/日で7日限度)はこれらの状態に準ずる状態という条件の下、算定が可能となります。
救急医療管理加算1の対象になる状態
ア 吐血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害又は昏睡
ウ 呼吸不全又は心不全で重篤な状態
エ 急性薬物中毒
オ ショック
カ 重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)
キ 広範囲熱傷
ク 外傷、破傷風等で重篤な状態
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態
あいまいな定義
救急医療管理加算は緊急入院を必要とする重症患者であって診療報酬点数表に定められた状態であれば算定出来るとされています。
ア~ケの病態における明確な算定基準はこの加算が創設された当初から示されていません。
現場からするとここが一番納得のいかないところで、この病態の説明だけで判断なんかできるかい、っていうのがホンネです。
そもそも同じ病態であっても当然重症度は違ってくるわけでそこの判断基準さえ決めていないというのは不可解きわまりないわけです。
ですがこれは明らかに意図的に明確にしてこなかったんでしょう。
その方が何かと厚労省にとっては都合が良かったのだと思います。
ですがそのあおりを食う病院にとってはたまったものではないのです。
各都道府県によってまったく査定基準が異なり、いったい何が正しいのかもはや誰も分からない状態です。
ですので他府県の査定状況なんて何の役にも立ちませんし、対策の立てようもありません。
やれることといえば査定は全件再請求するということだけです。
そしてまた再請求すると認められる場合もあるので余計に分かりません。
審査機関に聞いてみたところで明確な返事などあるわけもなく、厚労省も基金も国保連も医療機関で遊んでいるようにしか思えません。
遊ぶという表現はとても失礼な言い方なのですが現場はホントにそれくらい困惑しているのです。
診療報酬点数表にある項目なのに扱いが難しすぎるのです。
診療報酬改定
ここにきてやっと中医協では算定基準を明確化しようとの流れになってきました。
次期改定でどこまでその基準を詰めてくるのかはまだ不明ですが算定運用が標準化していくことはとても良いことです。
中医協のデータによると救急医療管理加算1算定患者の分析で「意識障害または昏睡の患者」でJCS「0」が16%、「呼吸不全または心不全で重篤な状態」でNYHA心機能分類レベル1患者が10%弱、「広範囲熱傷」の患者では、Burn lndexで0~5未満の患者が約35%との結果が出ています。
こう見るとやはりかなりの病院で査定覚悟で請求をしている状況がうかがえます。
そこには救急医療係数の問題が関係します。
救急医療係数はEFファイルにさえデータが入っていればいいのでその後の査定状況は関係ありません。
ならばということで救急医療係数の向上に重きを置いて請求を行っているところが多いのも事実。
言い方は悪いですが過剰請求しているところもかなりあると思います。
これはその病院の良い、悪いではなくてきちんとルールにはのっとってやっているわけなので当たり前といえば当たり前です。
悪いのはそのルールということになります。
次期改定でここにメスが入り適正化されていくことはとてもいいことなのですが、なぜここまで手つかずだったんだという思いもあります。
これはいってみれば正直者がバカを見る、やったもん勝ちのルールです。
ルール内でいかに立ち回るかが戦略なんだといってしまえばそうなんですが、あまりに不公平、あまりに抜け道だらけのルールです。
今回ここに基準を設けるというのならばもう誰が見ても分かるレベルで明確にしてもらいたいです。
そしてどれくらい厳格化されようともそれはどこの病院でも同じなのでとことんまでルールを詰めてもらいたいです。
さらに救急医療管理加算の評価軸に「配置医師数」や「搬送患者数」も加えてくるのかどうか、このあたりも注目点です。
算定要件
次期改定で救急医療管理加算の算定要件を厳格化してくるのは確実ですが、すべてにおいて明確化されるのかというとそうではないと思います。
しかし「意識障害または昏睡の患者」「呼吸不全または心不全で重篤な状態」「広範囲熱傷」についてはデータにて重症度の比較までしているとことを見るとなんらかの基準を設定してくるのだろうとは想定できます。
その点については次期改定にて明確になるとは思うのですが、その他の項目は今までどおりなのかというところも気になります。
大事なことは自院として明確な算定要件基準を定めておくことです。
そしてそれは自院の独自判断ではなくてある程度の査定も加味したちょうどいい落としどころのラインというものを持っておくことです。
少なくとも来年の3月までは現行のルールで進むのですから現状もし院内での運用ルールに少しでもあいまいな部分が残っているのならばきちんと整理しておくべきです。
とはいっても前述したとおりここの部分の明確な解説や定義づけなどどこを探してもなく、また情報もなかなか集めにくいのが実情です。
ですが近隣の病院、及び同じ都道府県内のいくつかの病院とのやりとりの中でこのラインであれば請求して問題ないだろうというものがありますので紹介しておきます。
ただしこれは当たり前ですが当院が属している都道府県の状況に沿っています。
ですのでこの基準よりもっと低くても通っている都道府県もありますし逆にもっと高い基準を要求するところもあります。
そもそも中医協で診療側は現在の加算1の患者要件については本来はICUなどの3次救急のもので2次救急の患者の状態には合致していないと説明してます。
「本来はICUで診る状態だが3次救急が満床で2次に回ってくるケースがあり、2次で対応せざるを得ないために加算1がついていることを理解してほしい」とも述べています。
ですので少なくともそれぐらいの重症度は必要なんだというところは頭に置いておきましょう。
区分 | 病名 | 重症度 | 検査結果 | その他事項 |
ア | 脱水症 | (高張性脱水)血清Na濃度150mEq/l以上・血清塩素濃度110meql/l以下。(低張性脱水)血清Na濃度140mEq/l以下・血清塩素濃度110meql/l以下。 | 1日の輸液量≧1000ml | |
喀血 | 咳が出るときに血が出る症状 | |||
消化管出血 | 嘔吐に血液が混じる症状 | |||
イ | 意識障害 | JCS≧10 | ||
昏睡 | JCS≧10 | |||
脳卒中 | JCS≧10 | |||
ウ | 呼吸不全 | SpO2<90% | 酸素吸入又は人工呼吸 | |
心不全 | ・BNP≧100 ・クリニカルシナリオ(CS1~5)急性心不全 |
酸素投与又は強心剤投与 | ||
エ | 急性薬物中毒 | 大量服用、麻薬、洗剤、殺虫剤等 | ||
オ | ショック | 収縮期血圧≦90mmHg | 血圧低下 | |
カ | 肝不全 | (急性肝不全)発症から8週以内に高度の肝機能障害あり、プロトロンビン時間40%以下又はINR値1.5以上 | ||
急性腎不全 | ・血清クレアチニン値≧0.5mg/dl上昇 ・クレアチニンクリアランス≦0.25mg/dl |
|||
慢性腎不全 | ・血清クレアチニン値≧8mg/dl | |||
重症導尿病 | ・血糖値≧200mg/dl(空腹時) ・血糖値≧300mg/dl(食後) |
|||
キ | 広範囲熱傷 | 熱傷範囲30%以上かつBI≧10 | ||
ク | 外傷 | ・交通外傷で多発骨折、臓器損傷 ・高エネルギー外傷 |
||
破傷風 | ||||
ケ | 総胆管結石 | 内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術実施(入院初日) | ||
出血性胃潰瘍 | 内視鏡的消化管止血術(入院初日) |
これはあくまで一例なので都道府県によってはまったく参考にならない場合もあります。
ですのでやはりその地域の審査傾向を十分分析した上で、どのレベルの重症度で算定するかということのコンセンサスを院内でとっておく必要があります。
でないと診療側は算定できていると思っているのに実は事務側では算定していないという状況が起きてしまいますのでその点は十分考慮しておく必要があります。
まとめ
上記の加算1の明確化についてはもちろんなのですが、加算2の明確化もきちんと進めてほしいです。
むしろ加算1以上に加算2の取扱いは難しいです。
「これらの状態に準ずる状態」という定義はあってないようなもの。
ここをどうするかという問題も中医協で話し合われていますが、現場が納得のいく落としどころを探ってほしいと思います。
救急医療管理加算の算定件数を増やせば救急医療係数は上がります。
これは事実です。
だとするならば現行は極端な話、査定は想定内として過剰請求している方が係数は上がるということになります。
これは明らかにルールがおかしいです。
仮に自院が適正請求していたとしても他の病院が過剰請求ばっかりだと自院の係数はいっこうに上がってこないのです。
そしてその過剰請求であっても審査がぬるい都道府県では査定されない場合もあるのです。
これでは全国一律平等な請求体制とはいえません。
次期改定で厳格化されることになりますがファジーな部分は消し去ってもらいたい、そう願います。
ごまお