医療事務員の求人を見ると「経験者優遇」や「経験者歓迎」といった文言をよく目にします。
今までも何度も言っていることですが、医療事務はとても人の出入りのある職種です。
実際どれくらいの離職率なのかの一般的なデータがないのでわかりませんが、他業種と比べても低いということはないと思います。
ですので医療事務で転職というのも割と普通のことだったりします。
そしてその転職において医療事務では常識とされていることの一つに「経験者有利」ということがあります。
今回はその常識に真っ向から反論します。
ごまお
目次
【転職】医療事務経験者が有利なんてウソです
結論
これまでの自分のやり方を学び壊せるマインドを持てるかどうかが大事です。
経験者って何?
そもそもこの経験者という言葉の定義があいまいです。
もし仮に病院の人事担当者にこの定義の説明を求めれば、10人が10通りの答えを返してくると思います。
これはその病院の医事課が置かれている状況に左右され、その時点で求めている医療事務員像によって大きく変わってくるからです。
レセプトができる人を探しているのに受付やクラークを5年経験してきましたっていう人が応募してきても、それは医療事務経験者ではあるけれども病院側が求めている経験者ではないのです。
またDPC病棟の担当者を探しているのに、出来高請求しかやったことがない経験3年の入院係が応募してきても、またそれは本来求めている経験者ではないのです。
ですので「経験者優遇」という条件にバッチリ合う人材なんてめったにいないのです。
ほとんどは医療事務という大枠の中での経験者なだけであって、厳密な経験者ではないのです。
経験者のメリット
「だとしても全然知らない素人よりかはよっぽどマシじゃない?」って思われる人も多いと思います。
ですが私の結論はこうです。
「全然知らない素人の方がいい」
「いやいやそれはない」と思う人が大半だと思います。
特に実際今現場にいる人にとっては「ズブの素人に来られても困る」「ゼロから教えるのなんてムリ」っていう想いが強いと思います。
まして欠員が出ている状況でそれをされると「OJTするのは現場、人だけ入れて丸投げしてくるんじゃねえよ上司」という感情しかないと思います。
それはよくわかります。
実際私も現場からきっとそう思われているでしょうから。
しかしどこまでいってもこの点において私と現場の意見がかみ合うことはありません。
なぜならお互いのゴールが違うからです。
現場が見ているのはまさに今のこの状況。
しかし私が見ているのは1年先、3年先、5年先の医事課です。
意見が合うはずがありません。
そして現場サイドから見ると今のこの状況を即改善しようとすれば経験者をもってくるのが最善だという結論に行き着きます。
ですが長年現場を見てきて思うのは、そのような対処はホントに場当たり的で長いスパンで見たときあまり上手く機能しないということです。
そしてそれよりももっと前の段階として、そのもってきた経験者が上手くマッチしない確率がかなり高いということです。
それはいうなれば、経験者というメリットが逆にデメリットになってしまうという避けづらい状況が生まれるからです。
ですので経験者というメリットはメリットとは言い切れないのです。
経験と信念から生まれるデメリット
たとえばこんな例があります。
入院係の担当者を一人募集したところAさんが選ばれました。
Aさんは他病院に在籍していた現役バリバリの入院係です。
外来レセプト、入院レセプト、自賠、労災すべての経験がある医療事務歴5年の人でした。
この職歴だけを見ればまさにうってつけ、求めている人材だと病院側としては見ます。
しかし本当のポイントはそこではないのです。
ポイントは何かというと、新しい状況において新たに学べるか?ということなのです。
つまり大局的に自分を俯瞰で見ることができる人かどうかが重要なのです。
簡単にいえば、これまでの自分のやり方を学び壊せる人かどうかということです。
私が「全然知らない素人の方がいい」という理由はここにあります。
この今までの自分のやり方を学び壊すことってかなり難しいのです。
これはその人が悪いとかいう話でもなくて、誰もがハマる罠みたいなものです。
それなりに経験を積めば自信が持てます。
そしてそれをくり返すことによって自分の中に仕事への信念、プライドというものが構築されていきます。
これはみんなそうなんです。
だからこれが悪いというつもりはありません。
大事なことはこの先です。
ここから2つのパターンに分かれます。
①スキルと経験があり、かつ柔軟なマインドセットを持つ人
②スキルと経験があり、かつ固定化したマインドセットを持つ人
この場合転職して上手くいく割合が高いのが①の人で、上手くいかない割合が高い人が②の人です。
そして過去私が見てきた人でいくとほとんどの人が②に該当するのです。
経験を積み信念が強いということはいいことなのですが、その想いが強すぎるとそれは学びにとっては足かせでしかなくなるのです。
「前の病院ではこうしていました」
「こんなところまではやっていませんでしたが」
「この病名でレセプトは通していました」
そういう発言が増えてしまうのです。
要は今までの自分を俯瞰で見れないのです。
今までのやり方を否定されることが今までの自分を否定されることと同義であると見てしまっているのです。
それはまったく違うことなのに。
つまり経験と信念が強すぎるあまり過去のやり方を学び壊す勇気が持てなくなるのです。
そしてそれは同時に教わるという姿勢をも次第になくさせていってしまう。
それがエスカレートしていくと最後には「自分のやり方が正しくてここのやり方がおかしい」と感じてしまうのです。
こうなるともう学ぶことはできなくなります。
以前に「素直さは最強スキルの1つです」ということを書きました。

そこで述べていることと今回の内容は強く結びついています。
新卒で入職したり他業種からの転職組の人たちの方が成長が早かったりする理由はここにあります。
その人たちはゼロから医療事務を始めるのでスキルを習得しなければならない、経験を積まなければならないという意識が強い。
つまりは学ぶことにポジティブなのです。
そしてその姿勢こそが医療事務という常に変化し多くの人たちを相手にしないといけないという臨機応変さが求められる職種には必要不可欠なのです。
仕事にベストな方法なんてありません。
それはその時の状況でいくらでも変わりうるものです。
だから前職で行っていたやり方が正しいなんてことはない。
そして転職先のやり方が正しいなんてこともありません。
それは常に最善の方法を模索してアップデートしていく必要があるのです。
だとすればまずすべきことは、以前のやり方と今のやり方を学んだ上で比較しさらに良い方法を探し出すことです。
そのためには過去にとらわれていては何も進まないわけです。
過去の経験とそこから生まれた信念は一度別の箱に移しておく必要があるのです。
まとめ
経験者有利は幻想ですといってもこれは経験者はいりませんという話ではありません。
要はマインドセットの問題です。
今までの自分のやり方を学び壊し、新たなことを学び直せる経験者であればそれが最強の転職者です。
その人こそがホントに病院が求めている人材です。
そうなってはじめて「経験者優遇」「経験者歓迎」という言葉が意味を持つのです。
これからの時代これまで以上に転職する人は増えていくはずです。
そして転職があたり前の時代に入っていきます。
それは病院においても同じことで、そもそもの話病院の数自体が減っていきます。
ですから自分が働いている病院が将来においてなくなっていることさえもないとは言えないのです。
AI、ICTが主流になれば確実に事務員の数は削減されていきます。
そしてその波は遅かれ早かれ必ずやってきます。
そうなればいやおうなしに転職せざるをえない状況は十分出てきます。
ですので転職なんて自分には関係ない、一生この病院のこの職場だなんてことはもう言えない時代に入ってきているのです。
だからこそ常に新たなことを学ぶ姿勢、自分を俯瞰するスキルは持っておかないとこの先が危ういです。
「いや全然大丈夫、全然危うくない」って思っている人こそ危ういです。
「もう新しく学ぶことなんかあんまりないな」って思っている人は結構ヤバいということをちゃんと知っておくべきです。
ごまお