おとついの記事の最後に教育係の育成こそが私の喫緊の課題だということを述べました。
医事課にはさまざまな問題がありますが、突き詰めるとすべては「人」の問題に帰結します。
どんなに良いシステムを作っても、その中できちんと動いてくれる人がいてこそそれは意味を持ちます。
ですので人材の育成は最重要、そしてその体制を厚くできてこそ安定した医事課運営も可能となってきます。
今回はその中でも大事なOJTについて考えます。
ごまお
目次
【現場の本音】OJTの意味は(O)おまかせ(J)自分で(T)トレーニング!?
結論
医事課の人材育成システムをしっかり構築していくことが必要です。
OJTとは何か?
OJT(On-the-job Training)という言葉を私たちはなにげに使っていますがOJTって何なのでしょう。
このOJTの定義が人によってバラバラです。
そもそもOJTを行うための教育を受けたことがある人がまずいません。
みんなOJTという言葉を使いますが、それぞれ意図していることが全然違う可能性は大いにあります。
「仕事を教えること」がOJTなのか、「仕事をさせること」がOJTなのか、その両方を含んだもっと大きな意味をいうのか、それはその人の主観しだいとなるわけです。
ですがなんとなく職場で行う教育的なものはすべてOJTと私たちは呼んでいるような気がします。
ですので定義が実にあいまいです。
そして同じ医事課であっても病院ごとにそれが指す内容は変わってきたりもします。
ホントにOJTって何なのでしょう。
少なくとも計画的で体系的で重点的に行う職場での指導ならOJTと呼ぶのでしょう。
でも実際そんなシステマチックに行われている医事課なんてまあないでしょう。
そしてOJTが機能していないところも数多いと思います。
OJT機能不全
これは医事課がかかる疾患です。
なぜ機能しないのか?
その理由は大きく分けて次の3点です。
・教育係の時間の確保が難しい
・教育係の能力不足
・人材育成の重要性が浸透していない
教育係の時間の確保が難しい
ここが一番大きな問題点です。
要は忙しすぎるのです。
しかしここは避けては通れないところです。
というかこれは当たり前の話です。
欠員が出てその補充が新人なのですから、現場が忙しいのは当然なのです。
これは完全に管理者の責任です。
教育係が時間を確保できないというのであれば、確保できる体制を用意する必要があるのです。
その体制を作った上でなお時間がないというのであれば、今度はそれは教育係の問題です。
ですがえてしてこれら2つのことはごっちゃにされているように思います。
中堅層の厚いフォロー体制を作らずに「時間を作りなさい」と一方的に教育係に責任を押しつけている上司は無能すぎますし、逆に体制はとれているのに「忙しい、忙しい」と言ってばかりの教育係もまた違います。
どこに問題があるのかを明確にしないと、この問題は一向に解消されません。
教育係の能力不足
これも避けては通れない問題です。
そもそも人は教育係のための教育を受けていない。
もうこの1点のみです。
そしてそれによる影響は想像以上に大きいのです。
ある意味OJTの危うさともいえます。
それは教育係の能力にすべてが依存してしまうということです。
そしてその能力は実際使う場面が来るまで誰にもわかりません。
実務が超優秀でも教え方が全然ダメっていう人がいます。
反対に実務はそこそこでも教え方は超上手いっていう人もいます。
それはホントにそのタイミングまでわからないのです。
そしてたとえ教育係の能力不足が露呈しても他者が介入するまでそれはわかりません。
なぜなら比較するものがないからです。
たとえば同時に教育係Aさんと教育係Bさんが新人Cさんと新人Dさんにまったく同じ業務を一から教えているのであれば、その新人の学習効果から教育係の出来、不出来という他者評価は行えます。
ですが一人だけの新人のOJTとなった場合、その学習効果が早いのか遅いのかの判断はとても難しいのです。
もちろん過去の例と比較することはできます。
しかし、そのときと今とでは業務内容が違う、周りの状況が違うということは当たり前にあります。
だったら比較することには何の意味もないわけです。
そうなるとその新人単体での評価とならざるをえないのです。
そしてそれは完全なる主観だけの評価となります。
つまり教育係ができていると思えばできているし、できていないと思えばできていないのです。
そしてそこには自分の教え方が上手いか下手かなどという自己評価は一切加味されてこないのです。
一対一で行うからこそのネガティブな要素はそこにあるのです。
仮に上司がその教育係に丸投げしていれば、もう誰も教育係の能力不足に気づくことはないのです。
人材育成の重要性が浸透していない
これは医事課内もそうですが、経営陣にもその重要性が浸透していないものと思われます。
これはそもそも医事課が重要視されていないということがその根底にあると思います。
何度も言っていますがヒエラルキーの問題です。

軽視とは言いませんが事務職を重要視していない病院って多いと思います。
これは私が事務職だからそう思い込んでいるだけなのでしょうか。
そうではないと思います。
その証拠が求人票の「経験者優遇」「経験者歓迎」という文言にも表れています。
つまり経営陣にとっては、経験者が来てくれれば現場の負担は軽減され業務が回るものと思っているのです。
そこには「経験者を配置すればなんとかなるだろう」という想いが強いのです。
「いやなんとかならないのです。
欠員を補充するのは最低限すべきことであって大切なのはその先なんです」
っていう現場の想いは届いていない。
大事なことは人を入れることではなく、医事課を回すことです。
そのためには新人だろうが経験者だろうが教育していくことには変わりはない。
そして最重要なことはその「教える」という行為そのものなのです。
そのためにはギリギリの人数で回しているところに新人を放り込んだって何の意味もないのです。
それは物理的に人数が増えただけであって、現場の人の負担を余計に重くしているだけです。
OJTを機能させようと本気で思うのならばそれに見合った体制づくりは必要不可欠なのです。
(O)おまかせ(J)自分で(T)トレーニング
結局OJT機能不全の根本的な問題って何かっていえば、盲目的なOJT崇拝なんだと思います。
つまり「現場から学べ」「経験から吸収しろ」という現場第一主義的な強い思い込み、そしてある程度のところから先の「人に頼るな、自発的に動きなさい」という勝手な解釈、そこに起因しているのではないかと思うのです。
そしてこれは新人側から見るとえげつない状況です。
「OJTって(O)おまかせ(J)自分で(T)トレーニングという意味なんだ」ということに気づかされるのです。
「わからなかったらすぐ聞いて」というこの言葉は文章で書くとフォロー十分なやさしい言葉ともとれますが、現場で聞くとそうとはとれなくなります。
最初の数回は回答してもらえても、そのうち「ちゃんと考えた?」や「この前も言ったよね」という返事が来るようになります。
これは一種の圧迫教育です。
そんな言葉はないのでしょうが。
ですがこれは普通に起こりうることなのです。
そしてそんな物言いは相手にどんな影響を与えるかしっかり考えなければならないということは以前にも述べました。
私たちはみじんも思わないでしょうが、新人が見る現場は間違いなく殺気だっているはずです。
そしてその環境で「(O)おまかせ(J)自分で(T)トレーニング」を課せられることがどんなに厳しいことかを私たちは認識しておかなければいけないのです。
誰でも最初はできなかった、そんなあたり前のことを私たちはいつしか忘れているのです。
まとめ
医事課のOJTって何なのか、もはやそれはよくわからないシロモノです。
OJTはしていますという既成事実だけは作っておいて、あとはそれぞれの個人の責任へ転嫁しているだけにすぎない。
その本質はどこにあるのか、もう一度しっかりと考え直す必要があるのではないでしょうか。
そもそもですがOJTによって新人のモチベーションが向上することってあるのでしょうか。
その逆は目にしたことはあります。
それは多分にあることではないでしょうか。
OJTによって落ちていくモチベ。
ですがもはやそんなことはどうでもいいと言わんぐらいに現場にはその余裕がない。
そんなところに構ってはいられない現場の苦悩がそこにはあります。
これはそれぞれの階層レベルで向き合っていかないと決して良くはなりません。
新人にとっての問題、教育係にとっての問題、管理職にとっての問題、経営陣にとっての問題。
どれか一つでも欠ければ上手く回ることはありません。
名ばかりのOJTでもいいのか、それとも本当のOJTを目指すのか、
それはそれぞれの医事課に突きつけられている重要な課題なのです。
ごまお