【ざっくりまとめ】応召義務と働き方改革

先日厚生労働省は「応招義務をはじめとした診療治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」と題する医政局長通知を出しました。

今年7月18日に開かれた社会保障審議会医療部会にて医師の応召義務について「現代における応召義務」に関する解釈通知を発出するとの方針を示しており、これを受けての今回となっています。

今回はこの新しい応召義務の通知について見ていきます。

ごまお

応召義務を考える

【ざっくりまとめ】応召義務と働き方改革

結論

緊急性あり、なし・診療時間内(外)、勤務時間内(外)に分けて整理します。

応召義務

応召義務への対応

今回の通知はコチラ

⇒応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

 

今回の内容を見る前にそもそもの応召義務の定義、問題点を確認しておきます。

ここについては以前に記事にしました。

応召義務と働き方改革【現状維持?見直し?撤廃?】

簡単にまとめておくと

・応召義務は医師の働き方改革とは密接に関わっている問題である

 

・応召義務は医師が国に対して負う公法上の義務に過ぎない

 

・応召義務は70年間改正されていない

 

・グレーゾーンがかなり広い

といったところです。

そして7月18日の社会保障審議会医療部会では

医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた 医師法の応召義務の解釈に関する研究について

という報告の中で「診療しないことが正当化される事例の整理」という資料が提示されていました。

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今回はそれに沿った通知となっており、これに基づき全国的な周知を図るとしています。

そして本文には

過去に発出された応招義務に係る通知等において示された行政解釈と本通知の関係については、医療を取り巻く状況の変化等を踏まえて、診療の求めに対する医療機関・医師・歯科医師の適切な対応の在り方をあらためて整理するという本通知の趣旨に鑑み、今後は、基本的に本通知が妥当するものとする。

と示されています。

ですので今回の通知が今後の事案を検討する場合の元になるということです。

診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方

以下のように示されています。

・緊急対応が必要であるか否か?(病状の深刻度)

 

・診療時間内、勤務時間内かそれ以外か?

 

・患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係

患者を診療しないことが正当化される事例の整理

 

①緊急対応が必要な場合 かつ 時間内

 

事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される。

 

②緊急対応が必要な場合 かつ 時間外

 

・応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない。

 

・必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い。

 

・診療所等の医療機関へ直接患者が来院した場合、必要な処置を行った上で、救急対応の可能な病院等の医療機関に対応を依頼するのが望ましい。

 

③緊急対応が不要な場合 かつ 時間内

 

原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。

 

ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も考慮して緩やかに解釈される。

 

④緊急対応が不要な場合 かつ 時間外

 

即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。

 

ただし、時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが望ましい。

個別事例ごとの整理

 

①患者の迷惑行為

 

診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される。

 

②医療費不払い

 

以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。

 

しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。

 

③入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等

 

医学的に入院の継続が必要ない場合には退院させることは正当化される。

 

病状に応じて大学病院等の高度な医療機関から地域の医療機関を紹介、転院を依頼・実施すること等も原則として正当化される。

 

④差別的な取扱い

 

患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教等のみを理由に診療しないことは正当化されない。

 

ただし、言語が通じない、宗教上の理由等により結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。

 

特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。

 

ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。

 

⑤訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応

 

外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則である。

 

文化、言語等の違いのみをもって診療しないことは正当化されない。

 

ただし、文化や言語の違い等により、結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。

まとめ

今回の通知は新たな指針として示されたことは良いことだとは思いますが、抽象的すぎて読んでもよくわからないというのが率直な感想です。

わからない原因は詳しい定義づけがされていないからです。

たとえば緊急性のある事例については診療の義務というのは当然発生するとは思いますが、それはどこまでの緊急性を意味しているのか、受け入れ施設のレベルによってそれは大きく変わってくるのではないかと思います。

以下の場合なんかがそうです。

②緊急対応が必要な場合 かつ 時間外

 

・応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない。

 

・必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い。

 

・診療所等の医療機関へ直接患者が来院した場合、必要な処置を行った上で、救急対応の可能な病院等の医療機関に対応を依頼するのが望ましい。

上記の場合が該当するところって多くは診療所になってしまうのではないでしょうか。

基本二次救急以上のところでは見ざるをえなくなる。

これだと今までと何も変わらないわけです。

ホントに医師の働き方改革を断行していこうとするのならば、この応召義務の問題はもっと詰める必要があります。

緊急性が低ければ応召義務は免除するだとか、自己都合で時間外に受診しようとする患者は断っていいだとか。

それぐらい振り切らないと何も変わらないと思います。

この国の医療は医師の長時間労働のおかげでなんとかもっているのはまぎれもない事実。

そしてその長時間労働を生み出している大きな原因の一つがこの応召義務なのも事実。

冷めた見方ですが今回の通知で何か変わるのかといわれれば、ほぼ何も変わらないと思います。

これは厚労省が医師の働き方改革に真摯に取り組んでいますよという表向きの既成事実を作っているにすぎない、そう思います。

本気で取り組んでいるのならもっと具体的にする必要があります。

医師の裁量に任せるのではなくて、ある程度の客観的なラインというものを示してあげなければ疲弊する現場は変えられない、そんな風に思うのです。

ごまお

患者側の意識改革、社会のコンセンサスも絡んでくるから一筋縄ではいかないんよね

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