医療事務には入院係という仕事があります。
入院の一切の事務業務を行うところです。
病院経営において入院収入は全体の7〜8割を占めます。
そこの請求業務を行うわけなので、非常に重要な役割を担っています。
今回はそんな入院係をフォーカスします。
ごまお
目次
【医事課】入院係は5年で卒業すべき論
結論
入院係はあがりではない。もっとその先を見すえるべき。
入院係
医療事務と入院係
私は医療事務という中での業務では入院係をやっていた期間が一番長いです。
ですので入院係への思い入れも人一倍強いです。
当ブログでのたとえ話でよく入院係が出てくるのもそのせいです。
これを読んでいる人の中ではそれこそ現役の入院係の人もいるかもしれません。
今回述べていくことは私の経験則としてのことと、今の立場から見た入院係という両方の視点をミックスしています。
ですので自分が感じていることとはだいぶ違うなあ、ということがあるかもしれませんが、それはあくまで私個人としての意見なのでそこはご了承ください。
さすがに私が現役バリバリで入院係をやっていた頃とは状況も変わっています。
診療報酬改定も幾度となく行われ、時代の流れはICT化へと進んでいます。
ですがこれは率直な感想なのですが、昔と大して変わっていないように思います。
それこそ紙請求からオンライン請求へという大きな変化はありましたが、その他はあまり変化しているとは思えない。
入院業務の全体像は昔も今も同じ印象なのです。
これは良いことなのか、悪いことなのか。
答えは良い点もあり悪い点もあります。
良い点は業務がマニュアル化、標準化しているからこそ同じ印象だということ。
業務の方法が細かいところまでしっかり引き継がれてきているともいえます。
しかしそれが悪い点にもつながります。
つまりどこも変えてきていないということです。
変えずとも不都合な点は出てこなかった、またはそんな疑問すら持たなかったか。
ここまで聞けば入院係の全体像、もっといえば医療事務の全体像が見えてくると思います。
つまり、徹底したマニュアル主義、ルーチン業務の連続ということです。
そして一番の特徴はクリエィティブ性を発揮する職種ではない、と当人たちが思っているということです。
医療事務は何かを生み出しているわけではない、だから給料が低いんだというのはよく聞く話です。
しかし何も生み出していないのはその個人であって医療事務ではありません。
医療事務にクリエィティブ性がないというのはバイアスがかかっています。
もちろん何も考えずたんたんと決められたことをこなしていれば、そこにはクリエィティブ性はみじんもありません。
ですがそれはもはや作業です。
仕事と作業は別物です。
ただ単にやらされている事務作業からいかに病院収益に寄与できるか、患者サービスに貢献できるかという問題解決へ思考をめぐらしシフトしてはじめて仕事となります。
そうした医療事務の付加価値を追い求めない姿勢では高いモチベーションも生まれないということは以前にも述べました。

医療事務は決して何も生み出していないわけではありません。
請求のもととなる診療行為はもちろん生み出すことはありませんが、そのもとを材料に請求という料理をするのが私たちなのです。
そこには料理人の腕というのが大きく影響するのです。
マニュアルだけでは生み出せないプロの技術、付加価値というものが求められるのです。
ですが多くの請求担当者にはそのような意識は強くありません。
それよりも重視するのが正確さです。
行った診療行為を漏れなくきちんと請求する、その一点に注力します。
それはとても大事なことです。
しかしあまりにもそこに固執しすぎていないだろうか、そう思うのです。
正確さを追い求め残業する。
入念に何度もチェックを行う。
それは一見正しいように見えますが生産性の視点がない。
これは医療事務全般にいえますが、仕事をするに当たり高い生産性を目指すという概念がそもそもない、もしくはかなり弱い。
過去にも何度も言っていますが、医事課の最大のミッションは病院収益の最大化です。
それを目指すには生産性の向上を目指すという想いがないと絶対成し遂げられません。
そしてそのためには、どうタイムマネジメントしてくかが非常に大事なのです。
しかしいまだにレセプト残業信仰が残っている世界です。
レセプト残業やむなし、そう思う人がいなくならない限り高い生産性なんてのぞめないのです。
入院係のポジション
話を入院係に戻します。
冒頭で入院収入は全体の7〜8割を占めるといいました。
そうするとそこの請求を担当する入院係ってかなり重要なポジションになります。
ですのでそこを任せるのはそれなりの経験者というのが通常です。
新人をいきなり入院係にもってきて病棟担当をさせるとなるとかなりハードルが高くなります。
だからその場合なら完全に独り立ちできるまで教育係をきっちりつけてフォローしていく以外にありません。
実際そうしたこともありました。
ですが普通よくあるのはある程度の経験者、それもほどほどにレセプトが見れる人を入院係に配置換えをするパターンです。
これだとあとは入院特有の業務やレセプト注意点などを覚えていってもらえれば新人を育てるよりも早く育成することができます。
どちらにせよ入院係を育てるにはそれなりの時間と労力が必要になります。
私のことでいいますと、もともと外来レセプトを見ていてその後入院係という流れでした。
そして当時入院係に行く前に思っていたことが、「入院係は難しい」ということでした。
なんかとんでもなくややこしいのではないか、と思っていたと記憶しています。
また当時はDPC導入前でしたのですべて出来高レセプトでした。
入った直後感じたのが「やっぱり難しい、内容が超濃い」ということでした。
ですが今思えばそれは単なる入院係バイアス、入院係アレルギーだったのではないかと。
結局要は慣れの問題でした。
慣れるまではそれなりに時間はかかりましたが、やっていることは外来レセプトの延長線上のことです。
一つひとつ分解していけば外来も入院もやっていることに大差ありません。
「いやそれは言い過ぎ」
「今はDPCだから」
という意見もあるかと思います。
ですが私の結論は変わりません。
外来レセプトよりも入院レセプトの方が数段難しい、それは幻想です。
外来レセプトよりやさしいことはありえません。
ですが数段も難しいものではない。
そもそも医療事務はそんなに難易度が高い仕事ではありません。
ただしこれには条件がつきます。
それは、つねに学習できる人、変化することをいとわない人であれば、ということです。
過去に外来係の人を入院係に配置換えしようとしたとき拒まれたことがありました。
「私にはムリ。外来レセプトしか見れない。」
そんなニュアンスのことを言っていました。
しかしムリなのはその人の能力なのではなくてその思考そのものなのです。
私にはその発言は「学習意欲も向上心、成長意欲も何もないけれどラクして給料は貰いたい」としか聞こえませんでした。
入院係は簡単だよというつもりはありません。
ですが学ぶ意思さえあれば医療事務員なら誰だってできる業務です。
それは本当にそう思います。
そして入院係を経験する意味はとても大きい。
DPCがわかる、手術算定がわかるというのは大きなアドバンテージになります。
その知識と経験は自分の武器となります。
当ブログではつねづね市場価値を高めましょうと言っています。


その高い市場価値の要素の一つが入院請求に精通していることです。
将来自分のキャリアがどこに進もうとも1度は入院係は経験してほしい、そう思います。
やはりここには医療事務の大事な蜜が大量につまっています。
そこを吸わずして医療事務を語ることなかれと思うのです。
「そうは言っても配置は上司が決めるものなので」
と思う人がいると思います。
ですが「入院係をやりたい」と上司に伝えるのはあなたの自由です。
そしてまずそんなことを言ってくる人はいません。
逆にいえば、そんなことを言ってくる人に対しては「おっ」と思うのです。
そして少なくとも上司の頭の片隅にはそのことは残り続けます。
私ならベテランだがモチベーションが低く惰性で仕事をしている入院担当であるなら、その希望者とチェンジします。
最初は大変かもしれない、でも先を見すえると間違いなくプラスに働きます。
入院係はあがりなのか?
入院係を長くやっているとおちいりやすい思考があります。
それは「自分はできるんだ」思考です。
特に外来レセプトを経由して入院係、さらに自賠も労災も経験した人にとってはレセプトのフルコンプリートなわけです。
そりゃできるって思ってしまいます。
できるの定義があいまいですが確かにそれ相応にできると思います。
ですが一点言っておきたいのは、伸びしろがないってことです。
入院係は最初の1,2年はすごく成長します。
ですがたとえば担当病棟が変わらないとすると、3年目以降の成長具合はガクッと落ちます。
そしてそのまま5年目までいくと、もはやそこに成長はありません。
惰性です。
これは当たり前の話で新しく学ぶことがないからです。
改定は少なくとも2回経験しますが、それも点数が変わる、算定方法が変わる程度の認識。
受け持っている病棟が一緒なら基本やっていることは同じ。
わからないことがあっても人に聞いたり、ググればだいたいはわかる、できる。
もう経験に100%依存なのです。
これはその先の入院係を見すえた場合非常にまずいのです。
今の状態をプラマイゼロとしてその人が将来プラスに働くことなんてまあないのです。
惰性でモチベが低い人なら個人としてはマイナス、周りへの影響を考えてもマイナスなのです。
この人の場合入院係をあがりと見ているわけです。
ですがそれは「あがり」どころか「さがり」なのです。
そもそも仕事にあがりなんかありません。
ですがベテランの入院係の人にはこの傾向が強いように思います。
私は入院係は最長で5年が限度だと思っています。
それ以上いても成長しない。
5年以上続けるのであれば担当病棟は変わる必要があります。
それこそ全診療科を経験しますということで2年ごとに担当を変わり続けるのであれば10年以上いても意味はある。
それ以外であれば5年が目安だと思います。
ホントは3年ぐらいでもいいと思っています。
でも3年ではそこまで深堀りはできないかもしれない。
もともと私はゼネラリスト推しなのでこんな考えなのです。

すごいそもそも論なのですが、私はこの先そこまでレセプトスキルを追い求めてもあまり効率的ではないと思っています。
今まではそれでやってこれたのかもしれませんが、今後はもっと経営的視点、スキルを高めていく方が本流になると思っています。
入院係を重視しないというわけではないのですが、それ1本で勝負するにはあまりにもリスキーなのではとも思います。
入院係のスキルを持っていながら他のスキルも併せ持っている、そんなハイブリッドな医療事務員が将来活躍するのではないでしょうか。
まとめ
もし読者の中に入院係を5年以上経験している人がいるのでしたら、一度この先のキャリアのことを考えてほしいなと思います。
5年でいっちょあがりと思っていればもうそこに高いモチベーションなんて生まれません。
知っている範囲で今までどおりに働くのはそりゃラクチンです。
でもそれって楽しいですか?
仕事の楽しさって自分が成長しているのを実感できるときに感じるのではないでしょうか。
ラクチンでモチベ低い、チャレンジングで大変だけどモチベ高い、
あなたならどちらを選びますか?
ごまお