以前に「医療事務のキャリアアップを考える」というテーマで今後の医療事務像といものについて書きました。

そこで述べた結論はジョブローテーションによりさまざまな業務の経験を積んだ上で、スキルの掛け合わせを行い希少性を持つことが最強の医療事務員になるためには必要というものでした。
今回はこの医療事務のキャリアアップを語るときに必ず論点となるスペシャリストか、ゼネラリストか問題について述べていきます。
ごまお
目次
【どっちが正解?】スペシャリストVSゼネラリスト【医療事務員の選ぶ道】
結論
突き抜ける気があるならスペシャリスト、掛け算をする気ならゼネラリスト
現状維持の人は対象外
本編に入る前にひとつ断っておくことがあります。
今回の話は読者をあらかじめ絞っています。
対象としているのは
・この先も医療事務で食っていこうと決めている人
・仕事には自己成長はマストだと考えている人
・自己研鑽をいとわない人
です。
いわゆる世間でいう意識高い系と呼ばれる部類の人でしょうか。
私は別にその人たちを意識高い系だとは思いません。
仕事をする上では当たり前のマインドでしょって思っています。
ですが実際にはそんな人は超マイノリティです。
普通にそんな人が医事課にいれば周りとの意識にギャップがありすぎて間違いなく浮きます。
誰もがみんな出世をのぞんでいるわけでもないし、細かい不満はあってもトータルでは現状に満足している人はたくさんいます。
ですのでそのような人たちは今回の話には何の興味もないはずです。
まず事実として「キャリアアップってそんなに大事?」と思っている層が一定数いるということです。
その現状維持層に向けて述べたところで何の意味もないわけです。
ですのであらかじめ想定読者の対象からは外しています。
もし現状にある程度満足している、今の状態が続いてくれるのならそれで十分と思っている人はここで読むのをやめてください。
この先にあなたのほしい情報は何もありませんので。
つまり今回の記事は現状維持志向の人向けには書いていないということです。
では始めていきます。
スペシャリスト
スペシャリストとゼネラリストを簡単に説明すると次のようになります。
スペシャリスト→その分野の専門の人
ゼネラリスト→広範囲の知識を持つ人
そして病院というところは専門職の集まりですからスペシャリストだらけの職場ということになります。
そしてその中で医療事務員は事務のスペシャリストという見方をされます。
そして私たち自身も医療事務のスペシャリストという自負があります。
しかし実際どこまで網羅していればスペシャリストなのかわからない部分はあります。
そしてどのレベルまでできていればその分野の専門家なのかもわからない部分はあります。
みんなスペシャリストの自負はありながら、自分のレベルがわからない。
それが医療事務という職種です。
どうしてそうなるのかといえば、みんな自院の医事課しか知らないからです。
他院の医事課と勉強会をしたり、情報交換をしている医事課も中にはありますが、多くの人は自分の所属する医事課しか知りません。
だからこそレンタル移籍制度を作るべきという現実とはかけ離れた妄想記事も出てくるのです。

結局医療事務のスペシャリストといいながら、どのレベルでスペシャリストと認められるのかを誰も知りません。
ただ医事課で働いているからスペシャリストなのだという認識を持っている人も多いはずです。
またたとえば、診療情報管理士だからとか医師事務作業補助者だからとか、その職を専門にしているからスペシャリストなんだと思っている人って結構いると思うのです。
でもそれはただ単にその仕事だけをしているだけであって、その分野の専門家とは違うのです。
また資格を取得していたとしてもスペシャリストかどうかは別問題です。
それほどスペシャリストという言葉の響きに現場の私たちはだまされています。
ホントにその分野の専門家であると自信を持って言える人ってそんなに多くないと思うのです。
特にレセプトにおいては自分が秀でているかどうかなんて担当者はわかりません。
なぜならそれは先ほども述べたように自院以外のレベルを知らないからです。
自院においてはナンバー1のレセプトスキルだったとしても、それは全国25万人の医療事務員の中では1000位かもしれないし10万位かもしれないのです。
レセプトスキル全国10万位の担当者をはたしてスペシャリストと呼んでいいものかどうか。
それほど医療事務のスペシャリストというキャッチコピーはあいまいで実態がないのです。
それでも本当に優秀で深い知識があり経験も長い真のスペシャリストと呼べる人も中にはいます。
そしてそのような人はどういうキャリアをたどるかというと、間違いなく昇進します。
そして管理職となります。
ですがここでひとつ問題となる場合があります。
それはスペシャリストとして優秀なことと管理職として優秀なことは必ずしもリンクしないということです。
つまり、スペシャリストの能力で評価された人はスペシャリストの能力以上のものが発揮できない場合があるということです。
結果その役職から上には行かないということです。
いわゆるピーターの法則ってやつです。

そうではなくて専門性にも優れ、人事管理にも優れているスペシャリストはさらにその上の役職へと昇進していきます。
ですが私の経験則ではそんな人はホントにまれです。
医療事務においてのスペシャリストはやはりスペシャリストの範疇から抜け出しきれない、そんな人が多いように感じるのです。
ゼネラリスト
対してゼネラリストはどうかというと、正直よくわかりません。
それは私の経験から語れるところが少ないということです。
ひとつ断っておきますが、ここでいうゼネラリストとは部署を横断する職種経験がある人を指します。
医事課の中でのゼネラリストという見方ではないです。
医事課は大きなひとまとまりとしてひとつです。
ですのでそれ以外ででいうと人事労務、経理、広報、地域連携、購買などが1つひとつのまとまりです。
それらを横断的に経験し、いろんなプロジェクトに携わった経験がある人をここではゼネラリストと呼びます。
であるとすれば、私は完全にゼネラリストではないのです。
というか私は医事課一筋20年という職歴ですので、完全なるスペシャリストなのです。
そしてつけ加えるなら、前述したとおりスペシャリストであるかどうかも怪しいということです。
ですので「自分の職歴でいくとスペシャリストに該当するし自分ではスペシャリストだと思っている」という言い方が正しいのです。
現在私は医事課長ですが、このまま進めば医事部長になれるかといえばそうは思いません。
なぜなら圧倒的にゼネラル系の知識、スキル、経験が足りないからです。
上の役職に行けば行くほど幅広い知識、スキルが必要になります。
専門分野にこだわってやれるポジションではありません。
そして何より必要とされるのは、周りを巻き込んでいく力、ミッションを実現させていく力です。
そしてそのために他部署と上手く連携がとれるコミュニケーション力。
スペシャリストのままでは身につかないスキルばかりです。
私は以前の記事で、ひとつスペシャリストの能力を身につけた上でゼネラリストに転身していくのが最も理想的だというようなことを書いたのですが、それは机上の空論なのかもしれません。
ただの理想論なのかもしれません。
それほどスペシャリストとゼネラリストの両立は無理難題なのです。
どちらを目指す?
スペシャリストとゼネラリストの中間をとれれば一番いいのかもしれませんが、それだと最も中途半端になる可能性はありますし、そもそもその中間のとり方がわかりません。
ですのでどうしてもどちらかに振る必要はあります。
自分はスペシャリストを目指すのか、それともゼネラリストを目指すのか。
これは勤めている病院の規模や人材育成の方向性にも左右されます。
そもそもジョブローテーションという制度がないところだったらゼネラリストタイプになるのはかなり難しいです。
最初に配属された課でずっと同じ業務をしているなんてこともあるかもしれません。
だとしてもホントに自分がゼネラリストを目指すというのであれば、上司にはきちんと伝えるべきです。
それですぐに配置転換されるという保証はないですが、伝えていなければおそらくそのままです。
私は今までここまでやってきて思うのですが、医事課には10年以上いるべきではないと思っています。
それ以降は違う部署へ異動すべきだと思っています。
これは普遍的なことですが、ひとところにずっととどまっていては人は必ず腐ります。
いつか成長は止まります。
絶対に慣れがダレに変わるのです。
これはもう人間の特性だから変えようがないのです。
「いやいや医事課の中でジョブローテーションするからいいのでは」という声があるかもしれません。
でもそれだとホントに医事しか知らない人間になってしまう。
「医療事務員なんだから医事だけ知ってればいいんじゃない?」
確かにそうかもしれません。
ですが、医事の仕事って何ですか。
医療事務ってどこまでがその範疇なんですか。
そんな明確な線引きってできないはずです。
すべては繋がっている。
それが病院業務なんです。
まして、この先医事の仕事の中身は確実に変わっていきます。
今行っている医事の仕事で10年後にはもう消えている仕事って必ずあります。
逆に今はしていないけど10年後には発生している仕事も必ずあります。
そうなると医療事務の仕事の定義が今とは明らかに変わっているはずなんです。
だから何が医事で何が医事じゃないなんて区分けはナンセンスなんです。
何が言いたいのかというと、医事の仕事はこれという固定した見方はしない方がいいということです。
医療事務の仕事はこれという決めつけはしない方がいいということです。
だからもっと簡単にいえば、医療事務という固定観念は捨てて、病院事務という広い視点を持つべきだということです。
受付、計算、会計、レセプト、それができれば一人前?
それは昔の医療事務です。
この先の事務職には確実に医療経営の力が求められます。
的確な経営戦略がうてない病院は淘汰されていくフェーズにもう入ってきています。
「それは経営陣が考えればいいんじゃない」と思っている職員がいる医事課では医事課の役割を果たせなくなります。
そしてそうなったときに医事しか知らない職員の医事課では良い戦略はうてないのです。
だって病院全体を俯瞰で見ることができないから。
そんな経験していないから。
保険請求に長けたスペシャリストを何人か置いとけばまあ安泰といった医事課の体制はもう過去のものです。
保険請求はできても経営分析、経営戦略がうてない医療事務員ではもうその存在価値は小さくなる一方なのです。
結局このスペシャリスト、ゼネラリストの話は目指すところは同じなのです。
的確な経営戦略がうてる人材ならスペシャリストだろうがゼネラリストだろうが構わないのです。
逆に言えばたとえゼネラリストであったとしても、知識と経験だけがあり経営戦略力、実行力がないのであればゼネラリストの強みはないということです。
与えられた業務を漫然とこなしているのであればスペシャリストでもゼネラリストでも大差ありません。
ですが、みずから問いを立て、検証し、組織の問題を解決していこうという気概があるのであれば、スペシャリスト、ゼネラリストのどちらを目指すのかは大きな違いとなります。
組織の問題解決を最優先におくのであれば、もうゼネラリスト一択です。
なぜなら視野の広さがまったく違うからです。
スペシャリストでは病院全体を俯瞰で見ることができない。
だから全体最適な解が出せない。
この文脈でわかるとおり私は一貫してゼネラリスト推しです。
というかもはやスペシャリストでは生き残れないと見ています。
医療事務においてスペシャリストで生き残れるのは接遇だけです。
その他はすべてAIに代替されます。
計算、会計、レセプト、すべて人間では勝てない。
ただしまだこの先10年はなんとかなります。
だから今50歳の人は逃げ切れます。
ですが20代、30代の人は絶対逃げ切れません。
将来レセプト業務なんてなくなりますから。
それでも今からレセプトのスペシャリストを目指しますかってことです。
それは明らかに負け戦でしょう。
投下するリソースに対するリターンがあまりにも少ないのです。
ですがレセプトのスペシャリストでも生き残れる道がないこともありません。
それは突き抜けることです。
たとえAIが台頭してきても、AIに教えるAIティーチャーが必要です。
また、少なくなっていくとしても人による審査は続きます。
であるならばレセプトがわかる医療事務員は必要です。
しかしその数は今の比ではなく少なくなります。
厳選されたレセプト担当者です。
そこをあえて目指すのかどうかということです。
スペシャリストとして突き抜けられるか?ということです。
もう三度の飯よりレセプトが好きで、愛読書は診療点数早見表で、中医協の診療報酬改定の議事録を読むのが大好きです、という人であるならば目指す価値はあります。
それはあなたの天職なのでしょう。
それぐらいレセプトが好きで仕事が楽しいという人はスペシャリストを目指す意味は十分あります。
でもそれ以外の人はゼネラリストを目指すべきです。
本来スペシャリストかゼネラリストかという選択は良い悪いの選択ではなくて、どちらを手段として選ぶかの話だけです。
ですが、ここまで述べてきてわかるとおり、こと医療事務に関してはスペシャリストを選択するメリットがあまりにも少ないのです。
確かにこれまでならはっきりとメリットはありました。
でもこの先はこれまでとはまるで状況が違うのです。
純粋に人口が減っていきます。
AI・ICTの勢力が増してきます。
病床数は削減されていきます。
病院は再編、統合されていきます。
どうゆるく見ても医療事務員の需要が増すとは思えない。
どう見ても医療事務員の数は今ほどいらなくなる。
その場合においてスペシャリストが真のスペシャリストとして生き残っているためには、並のスキルでは太刀打ちできないということです。
わざわざそんな激戦区へ飛び込みますかってことです。
勝てるかどうかわからない状況が将来間違いなく来ることがわかっているのに、何の対策もせずただの現状の延長線上だという風に見ているのであれば、あまりにも見立てが甘いのです。
掛け算
だったらどうするのか?
これは以前の記事にも書きましたが掛け算をするべきです。
つまりスキルの掛け合わせです。
レセプトスキルは10人に1人の価値、ITスキルも10人に1人の価値。
それだけでもう100人に1人の価値です。
100人に1人の価値ならば十分通用します。
さらにそこに経理のスキルも10人に1人の価値ならば1000人に1人の価値です。
1000人に1人の医療事務員ならばほぼ最強クラスでしょう。
でもそれってそれぞれ10人中の1番なだけなんです。
それなら少し努力すればなることはできます。
レセプトスキルのみで1000人中の1番を目指せって言われたらそれは途方もない努力が必要です。
それなら掛け算で1000人中の1番を目指した方がよっぽど楽な道なのです。
能力やスキルは掛け算すると価値が跳ね上がるということはよく理解しておくべきなのです。
そしてこれからの医療事務員が目指すべきはまさにそこなのです。
そこで大事になってくるのは、今後自分がどの分野を強みとしていくのかを明確に決めておくことです。
掛け算の式はもう立てておくことです。
そして何よりもう今から動き出しておくことです。
まとめ
突き抜ける気があるならスペシャリスト、掛け算をする気ならゼネラリスト。
もうこの2択です。
どちらかを選んでください。
私は掛け算ゼネラリストを選びました。
掛け算の式は 医療事務×プログラミング です。
この式の解が何なのかは今はわかりません。
今と何も変わらないかもしれない。
でも変わるかもしれない。
それはやってみないとわからないこと。
また本編で述べた内容は実は10年後でもやって来ていないかもしれない。
まだレセプトスペシャリストは全然安泰なのかもしれない。
でもそれもホントに誰も正解はわからない。
だったら最悪のラインから想定しておくべきではないのでしょうか。
どっちにしろ私の年齢では今の手持ちの武器だけではとうてい逃げ切れないのです。
だったら準備は早いに越したことはない。
ましてプログラミングをやっていてこの先その学習時間が損だったなんてことには決してなりません。
「医療事務にプログラミングをどう活用するの?そんなの使う場面がない」という人もいますが、それは考え方しだいです。
まずそもそも現状のまま未来があるという前提が間違っています。
医療事務ってこういう仕事ですという固定観念が間違っています。
この先どういう仕事の仕方をしていくのかは自分の考え方しだいです。
そして今後に備えてどういう武器を装備しておくべきなのか、またはそもそもそんな装備など不要と見るのか。
すべてはあなたしだいです。
この先の医療事務業界をどう見るのか?
自院の体制をどう見るのか?
自分の行く末をどう見るのか?
一度自分なりに答えは出しておいた方がいいと思います。
ごまお