医療事務で入院算定について語るとき必ず出てくるのがDPCです。
現在全国で1700以上の病院がDPC病院として届出ています。
そしてそのDPCには医療機関別係数というものがあってこれこそが病院収益に直結する肝です。
今後DPC病院はどこに向かって行かねばならないのか、ビジョンをどう置くべきなのか、そのあたりについて述べていきます。
目次
DPCとは
Diagnosis = 診断
Procedure = 処置(手術、検査等)
Combination = 組み合わせ
の頭文字をとってDPCと読んでいます。
簡単にいうと疾患名と診療行為を組み合わせたものとなります。
単語にすると診断群分類となりこれがもともとの意味です。
そしてこの診断群分類を用いた算定方式での制度をDPC制度と呼んでいます。
またこの制度を適用している病棟のことをDPC病棟と呼んでいます。
DPCが目指すところ
DPC対象病棟が目指す所ということで、医療の透明化、質的向上、効率化、標準化があります。
透明化ついてですが例えば入院、外来の診療データの提出というのがあります。
これにより全国のDPC対象病院の全データが厚労省に集められていて厚労省はそれをDPCデータとして公開しています。
それにより、例えば疾患別の在院日数であるとか、病院毎の患者構成の比率であるとか、救急患者がどの診療圏から来ているかだとかが分かり他の病院との比較が出来ます。
そうすることによって自分の病院の立ち位置が分かります。
また、効率化についてですがこれには在院日数の短縮が大いに関係しますし、また標準化については積極的なクリニカルパスの導入が必要不可欠となります。
このパスの使用は現にDPC制度導入に伴い急速に普及しました。
DPC病院ではクリニカルパスなしには成立しないと言われるぐらいに管理、活用される場面が多いです。
DPC制度とは
DPCを用いた1日当たり包括支払制度(入院費用の算定方式)をDPC制度と呼んでいます。
簡単に言うと入院患者さんの病名や症状をもとに手術や処置などの診療行為の有無に応じて厚生労働省が定めた診断群分類点数に基づいて1日当たりの金額からなる包括評価部分(注射・投薬・処置・検査・画像診断・入院基本料 等)と出来高評価部分(手術・麻酔・心臓カテーテル・内視鏡検査・リハビリ 等)を組み合わせて医療費を計算する日本独自の定額払い会計方式のことを言います。
包括評価部分の計算式
上記で出て来た包括評価部分というのがポイントでその計算式は
包括部分の費用 = 診断群分類毎の1日の包括評価点数×入院日数×医療機関別係数×10円
となっています。
そしてここで重要なのが医療機関別係数というものなのです。
計算式を見れば分かる通り例えば医療機関別係数が1の医療機関と1.4の医療機関がある場合同じ1万円の診療行為をしていても片方は1万円のままでもう片方は1.4万円で請求出来ることになります。
これは文字通り医療機関ごとに決められている係数なので、全く同じ診療内容であってもA病院とB病院では請求金額が違ってくるのです。
病院側からすると医療機関別係数が高ければ高いほどプラス収益になると言えます。
ですのでどこのDPC病院もこの係数をいかに上げるのかという点に常に頭を悩ませ日々課題に取り組んでいるのです。
機能評価係数Ⅱとは
医療機関別係数はその中で細分化されており、現在では①基礎係数②激変緩和係数③機能評価係数Ⅰ④機能評価係数Ⅱの合計値となっています。
その中でも機能評価係数Ⅱは医療機関が担うべき役割や機能、医療提供体制における効率改善などの取り組みを評価する項目です。
現在の機能評価係数Ⅱは①保険診療係数②効率性係数③複雑性係数④カバー率係数⑤救急医療係数⑥地域医療係数の6項目を評価軸として位置づけています。
機能評価係数Ⅱを上げるには
機能評価係数Ⅱの中でも病院の努力で上げられる係数と変えることが出来ない係数というのが存在します。
自院が置かれている医療圏の規模や場所によってある程度決まってしまう係数があるのです。
よって同規模、同機能の病院であっても立地環境などにより機能評価係数Ⅱに差があるケースも出てきます。
そのような外的要因に左右されず且つ機能評価係数Ⅱアップに向けて自院の努力次第で伸ばせる係数が何かといいますと効率性係数ということになります。
効率性係数とは
簡単にいえば平均在院日数のことになります。
しかしここでのポイントは全国でに症例数が多いメジャーな疾患(肺炎、脳卒中、狭心症、大腿骨頚部骨折など)の平均在院日数を短縮するということです。
これはこの係数の算出のルールがそうなっているので、いくら難病などの全国的に症例数が少ない疾患の平均在院日数を短縮しても係数には反映されません。
反対に自院ではそれほど症例数が多くなくても全国的に多い疾患の平均在院日数の管理はしっかりしておかなくてはならないということにもなります。
効率性係数を上げようとすれば早期退院ということになりますが、これだけ平均在院日数の短縮化が進んだ現在においては改善出来る余地もあまり多くはありません。
そうなると地域の後方病床としっかり連携をとったりといった仕組みづくりを継続的に進めていかなければ運営は苦しくなっていきます。
平均在院日数の短縮化
昨今平均在院日数の短縮化で起きていることはそのことにより効率性係数は上がったけれどもその分空床が出て来てしまい結果的には大して増収にもなっていないとか、あるいは減収になってしまうということです。
平均在院日数と病床稼働はどうしてもお互いが反対の影響を与えてしまうので平均在院日数を短縮すれば空床が増え、空床を埋めようとすると平均在院日数が延びてしまいます。
ここのバランスをどうとるかが1番重要であり1番難解な部分でもあります。
機能評価係数Ⅱにおける効率性係数の比率が今よりももっと高くなれば空床となっても係数を上げにいった方がいいとは思いますが、現状の比率であるならば自院の状況を検証した上でどういうバランスで進めるのかのシュミレーションが必要になってくると思います。
対策をどう打つか
効率性係数に関して言えばどういう仕組みで評価がされているのか、どういった対策が有効なのかをデータ分析をした上でしっかり詰めていく必要があります。
例えば自院の中でボリュームのある疾患における在院日数をどう捉えるか、ということに着目すれば全国的にも多くて自院でも多い疾患についてはやはりクリニカルパスが有効でしょう。
また全国的には多くても自院ではそれほど多くない疾患であれば主治医に情報提供を行った上在院日数が長くならないようにするといったような介入も可能だと思います。
更にクリニカルパスについてはパスで設定している在院日数が入院期間Ⅱに対応しているかどうかなどそれに基づく適切な運用がとれているかどうかを確認することも大切です。
まとめ
2020年度診療報酬改定ではDPCに退出ルールが導入されるだろうと言われています。
この実現性はかなり高いだろうと思います。
最初に述べたようにDPCの本質は急性期医療の標準化であり平均的な診療実態から外れた診療密度の低い病院であったり平均在院日数が長い病院が退出を求められるというのは自然な流れではあります。
外れ値をいつまでもそのままにしたまま制度を運用すれば医療資源投入量や在院日数を適正な設定とすることが困難になっていきます。
これは医療の標準化という観点からすると良いことですが、かたやもし自院が当事者となってしまえば目も当てられない状況となります。
DPC退出が何を意味するのかは病院経営に携わっていれば誰でも分かります。
これは完全なる死活問題なのです。
うちはそんな外れ値のようなポジションにはいないとどこの医療機関も思っているでしょうが外れ値をどこに置くかで意味あいは全く異なります。
そういう意味では常に自院のデータの分析と同時にデータ精度の向上に注力していかないといけません。
また、機能評価係数Ⅱの指標は国がDPC病院に求めているものとも言えるのでこれを参考にしながら自院の将来像を考えることも出来ます。
DPCの係数とは一朝一夕で上げられるものではないので、あらゆるデータをもとにして取り組むべき戦略を立て目指すべきビジョンを掲げ、そして病院全体での体制づくりを進めていく必要があります。
これは当然事務方だけで出来ることなどほとんどなく、あらゆる病院スタッフと連携し推し進めていかねばなりません。
すぐには結果は出てこない、しかし正しい戦略、正しい分析ならば結果はおのずと出るべきもの、と考えればちょっとワクワクしてきませんか。
ちょっとの努力ですぐに手に入るものには大して価値もないし、やりがいも感じられません。
継続した努力、自分を信じて進んだ道、その先に掴んだ結果は何にも代え難い大きな価値となります。
これは仕事をこえて人生にも通ずるものです。
DPCは今後自院を救うものでもあり、自院を刺してくるものでもある諸刃の剣です。
どちらになるかは医療機関次第です。
実際機能評価係数Ⅱの内容や評価のしくみを正しく理解している医療従事者は多くはありません。
一部の人だけが知っていて周知しようとしているがなかなか上手くいっていない、そんな所もあるかと思います。
大事なのは院内全体に広めていく発信力、正確なデータ精度と分析力、そして先を見据えた戦略力です。
これは別に診療情報管理士や医療経営士、入院係だけが中心になってする必要もなく、あらゆる医療事務員が関わっていけることですし関わっていくべきことです。
DPCなんて私には関係ないということは簡単ですがそれでは自ら1つの可能性を捨てているのと同じ事です。
DPCを知らなければ知る努力をしてみればいいのです。
それで1つの知見が深まり、また自分のキャリアにも道が開けるかもしれません。
これから医療事務を学ぼうとしている人からベテランの医療事務員の方まで医事課で働くのならばDPCは知っていて損はありません。
ぜひ学び、更に病院経営の中核へと入り込んでいって頂きたいなと思います。