【医療事務】自前VS委託、医事課のベストチョイスはどっちだ?

人件費削減、人材の安定確保という観点から、医療事務を外部委託する病院は少なくありません。

現在おおよそ全体の40%の病院が、医療事務を外部委託しています。

当院においても、外来の受付業務については外部委託をしています。

医事部門において医療事務員は自前でそろえた方がいいのか、それとも委託した方がいいのか?

その判断に悩んでいる経営陣、管理職は少なくありません。

今回はこの疑問を解決します。

自前か委託かの答えを出すヒントに、きっとなるはずです。

【医療事務】自前VS委託、医事課のベストチョイスはどっちだ?

結論

 

医事課の強化をはかるなら「自前」です。

委託化のメリット

全面的か一部分かの区別がなければ、医事業務を委託している病院って少なくありません。

現在のように委託化が進んだ理由としては次の2点があげられます。

・人件費抑制

 

・業務分担による効率化

1つ目の人件費削減については言わずもがなです。

職員を採用するよりも、圧倒的に人件費のコストを下げられます。

委託費さえ払えば社会保険の加入なども病院側で行う必要がありませんので、金銭面では大きなメリットがあります。

また、職員の退職に伴う新たな採用業務もする必要がありませんので、病院としてはその手間ひまも省くことができます。

そして、2つ目の業務分担による効率化もポイントです。

たとえば、受付業務は委託職員、レセプト業務は病院職員とすることで病院職員がレセプト業務に専念しやすい状況を作ることができます。

あるいはレセプト業務までを委託することで、効率化をはかる、精度を上げるという狙いもあります。

このように委託化のメリットは病院にとってはとても大きいです。

かかるコストはできるだけ下げて、それでいて請求の精度は高めたい、つまり利益を最大化させたいと考えている病院側にとって委託化は理想的なモデルなのです。

委託化のデメリット

ですがそうは上手くはいかないのです。

もしそれが100%上手くいくのであれば、もっと委託化は進んでいるはずです。

でも現状では委託化しているところは全体の約4割程度です。

中には以前は委託していたが、今はすべて自前の職員に戻したというところさえあります。

なぜそうしたのでしょうか?

その答えを簡単に言ってしまえば、委託化は病院利益を最大化させるものではないと病院が判断したからです。

つまり、コストを下げて精度を上げるということができなかったのです。

コストは完全に下げられているので問題はありません。

だから、ここでの問題は精度です。

そしてその原因となるところが次の2点です。

・習得した知識やスキルが蓄積されない。病院の財産として継承されない。

 

・従業員エンゲージメントが低い

まず、習得した知識やスキルが蓄積されない、病院の財産として継承されない、という点ですが、ここは非常に大きなポイントです。

たとえば業務を行う中で受付窓口にて保険や公費の知識やスキルを習得しても、委託職員が入れ替わってしまえばそれはリセットされてしまい、病院に財産として残りません。

次に従業員エンゲージメントが低い、という点もとても大きいです。

そもそも病院職員であってもエンゲージメントはそれほど高くないです。

まして委託職員となると、病院に属しているという帰属意識が本当に薄いです。

完全に病院さんと私たちという線引きをしている印象があります。

ですので基本的に何ごとに対しても受け身です。

みずから問題点を見つけ、改善していくという姿勢は病院職員に比べるとどうしても弱くなってしまいます。

委託の質

上記のように委託化にはメリットもデメリットもあります。

ですので両者を天秤にかけてメリットの方が大きいと判断すれば委託化に進むでしょうし、デメリットの方が大きいと判断すれば自前で職員を用意することになります。

ここで1つふれておきたいのが委託の質です。

つまり委託職員の質という問題です。

ここからは僕の個人的なかなり偏った見方、意見ですのでテキトーに流して聞いてください。

僕の結論としては

委託職員の質は平均して高くない

となります。

でもこの原因の根本はその職員個人にあるのではない、とも思っています。

誤解してほしくないのは、委託職員の方を見下しているわけでも否定しているわけでもないということです。

個人で見ればまさしく医療事務のスペシャリストと呼べるぐらいの方ももちろんいますし、病院職員よりも優秀と思える方もいます。

僕が問題と思っているのはその上の階層です。

つまりその委託会社そのものということです。

そして医療事務の委託・派遣会社においてはN社とS社が業界の2トップです。

両者で業界シェアの8割を占めています。

過去(2019年)にはこの両社に対して談合の疑いで公正取引委員会から立ち入り検査が入ったこともありました。

この2社以外にも医療関連会社は多数ありますが、大規模病院に対応できるところは限られており、業界全体で見るとこの2社が幅を利かせているというのが現状です。

そしてこの図式はずっと昔から変わっていません。

僕が医療事務業界に入ったのは20年以上も昔ですが、その当時からこの2社が2トップでした。

そして医療事務の委託というのは一度委託してしまうと、おいそれと違う会社に変えるということが非常に難しくなります。

医療事務という業種は仕事の中身としては、どこの病院であっても基本同じです。

でもそれは医療事務という大枠が一緒なだけであって、業務の運用方法、組織体制の枠組みなどはまったく違います。

ですので委託会社を変えるとどうなるかというと、後任の委託会社はその運用や体制のこと細かい部分までしっかり引き継ぐ必要が出てくるということです。

そしてそれはつまり軌道に乗るまでは、しばらく周りの病院職員の負担が増えるということを意味します。

またデメリットのところで言ったように、習得した知識やスキルが病院の財産として継承されないため、またイチからそれを蓄積していく必要があります。

ここでもまた後任の委託会社職員に伝える、教えるというミッションが発生するため、病院職員の負担は軽減するどころが増大します。

よってたやすく委託会社を変えるという決断はしにくいのです。

そこにプラス現在の委託費と変更した場合の委託費の比較も加わりますので、委託先を変えるというハードルはなかなか高いのです。

そして現実には大規模病院に対応できるところがたった2社しかないという現状。

つまりここから導き出される結論は、よっぽどどうしようもない状況でない限り、今使っている委託会社を変更するという選択肢は生まれづらいということです。

国公立等の一般競争入札であるならば、否応なしに金額の高低で落札されますのでそれは関係ありません。

ですが当院のような民間病院ですとそうはなりません。

オーナーが委託会社を変更すると言えば変わりますし、そう言わなければずっとそのままです。

そして当院もその例に漏れず、ここしばらくはずっと同じ委託会社と契約しています。

するとどうなるかというと慣れがダレに変わります。

これは現場の人もそうですし、委託会社そのものもそうです。

契約内容は去年と一緒、業務内容も一緒となれば、特に変えるところは出てこないのです。

すると現場の人が辞めれば補充する、また辞めれば補充といったような人の入れ替えに終始するだけになります。

そしてその補充されて入ってくる人材が、ほぼ間違いなく素人同然の人です。

他病院での経験者が入ってくることなどほぼありません。

そしてその素人同然の人材をOJTするという流れ。

しかし現場は現場で忙しいので十分なOJTもできず、なかなか人材は育たない、下手をすれば辞めていくという悪循環。

これはその新人の能力、現場の教育係の能力といったところにも当然問題点はあります。

ですが一番の問題点は、その委託会社そのものにあります。

N社、S社をはじめいろんな医療関連会社が委託・派遣事業を行っていますが、その企業らがどこまで医療事務員の教育、育成に力を入れようとしているのか、その注力具合、姿勢にはかなりの疑問符がつきます。

「いや、十分に注力しています」と彼らは言うのでしょうが、現場からはそうは見えない。

結局資格ビジネスなんでしょ。

そう思えてしまうところもあります。

僕は別に委託会社をdisるつもりはありません。

ただ、あまりにも会社としてのフォロー体制がお粗末すぎやしないか?そう思うのです。

辞めればまた入れればいいと思ってはいないかって感じるのです。

なぜ続かないのか、なぜ辞めていくのか、そのフィードバックはなされているのか?

次の新人育成にそれは活かされているのか?

この部分にぽっかり穴が空いているんじゃないのか、そう見てとれるのです。

そしてこれらのことの根本原因は、大手2社で業界を牛耳っていることからくる慢心、長期に渡って変化しないことからくる慣れ、ダレなのです。

本来なら相当なポテンシャルを持った企業でありながら、ビジネスに注力しすぎたため人材育成を軽んじてしまい失敗しているように見えるのです。

先ほども言ったように、委託職員の人の中でも優秀な人はいます。

でも僕の知る限りでは、そのような人たちはもっといい条件の職場を求めて辞めていく傾向が強いです。

それは結局彼ら彼女らに十分なモチベーションを持たせてあげられなかった委託会社の責任です。

でも当の会社は辞めた穴は補充すればいいとだけ思っている。

それでは何の教訓にもならないのです。

そしてまた同じことは繰り返されます。

「委託職員の質は平均して高くない」の真意は「委託会社の質が高くない」ということです。

自前のメリット

さて話は変わりますがこの先の医事課を展望すると、かなり厳しい未来が待っています。

どれだけ請求業務に関する知識やスキルを高めていったとしても、今後それらはどこかでAIに代替される可能性が非常に高いです。

この先5年くらいはまだそれほどの変化はないかもしれませんが、それ以降になるともうわかりません。

ですので今後は人間だからこそできる付加価値を提供していかなければ、医事部門の存在価値は薄れていく一方です。

つまり医事課としては付加価値のある医療事務員育成がマストのミッションなのです。

そしてそのための人材育成、体制づくりには職員は自前で揃える方が効率がいいです。

自前のメリットは大きいのです。

その理由は次の3点です。

知識やスキルが病院に蓄積する

まずここが非常に大きいです。

医事課職員が得た知識やスキルは、そのまま病院の財産として蓄積します。

それはひいては医事課全体のスキルアップや業務の効率化にも繋がっていきます。

従業員エンゲージメントを高めることができる

委託の場合はどうしても業務に向かう姿勢が受け身になりがちです。

言われた仕事をこなすことに終始してしまうことも少なくありません。

一方で病院職員の一員という認識を持つ職員が増えれば、日々の業務の中で問題意識をつねに持ち、それを解決しようと取り組める組織を作っていくことが可能になります。

そのような風土、土壌を作っていければ、ひいては従業員エンゲージメントも高めていくことも可能になっていきます。

エンゲージメントを高めることができれば医事課がチームとして効率的に機能し、組織に貢献できる機会もうんと増えることが期待できます。

将来の病院を担う人材育成が可能となる

この先の病院経営というのは、難局が多々出てくると予想されます。

その難局を乗り切るには、病院経営を担う人材の育成が必要です。

そしてそのような人材には、最低限の医事の知識と経験が必要です。

しかしその知識と経験は一朝一夕で身につくものでは到底ありません。

そこには長期に渡る育成プランが必要です。

であるならば、自院で医事課職員を雇用、育成し、キャリアを積むことのできる体制を整備すれば、結果として病院の将来を担う人材を育てることができます。

自院が求める人材像をそのまま作り上げることが可能となります。

このように自前のメリットはとても大きいです。

大事なのは医療事務を育てるという視点。

理論上これは別に委託であっても不可能ではありません。

でもそれはとても難しい。

医療事務を育てるという点に関しては自前の方が結果は出やすい、それは間違いありません。

まとめ

 

医療事務員は自前がいいのか?委託がいいのか?

医事課の強化をはかるなら自前がいい。

それが結論です。

ですがだからといって委託がダメと言っているわけではありません。

委託には委託のメリットがあります。

ただ、経費削減だけの視点で、委託ありきの視点で業務整理を進めることが病院にとって本当に利益の最大化に繋がるのかどうか、そこは検証する必要があります。

あなたの病院は自前がいいのか、委託がいいのか?

今一度じっくり考えてみる必要があるのではないでしょうか?

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