医療事務は経験者有利とされている職種です。
求人にも経験者優遇という言葉をよく目にします。
まずは資格を取り、次に経験を積め。
これは医療事務の世界に足を踏み入れる際に一般的に言われることです。
皆さん当たり前のようにこの言葉を信じていますが、はたしてそれは合っているのでしょうか?
資格のいる、いらないは個人の主観で答えはさまざまです。
ですが経験を積めというのは大部分の人が納得しています。
たしかにそれは間違いではありませんが、100%信じるのは危険です。
今回の記事を読むことで、医療事務が経験者有利とされている本当の意味を知り、経験者信仰にどっぷりとはまらないようにしてください。
経験者という看板に頼りすぎるのは危ないということを、ぜひ知ってほしいと思います。
目次
医療事務の経験者信仰、経験者有利論にだまされるな!
結論
選択肢をしぼり込むために経験は使えますが、どの選択肢をとるのかは自分のアタマで考えましょう。
医療事務の経験者信仰
経験がものをいう
これはどんな職種にもいえますが、経験していることは経験していないことよりも圧倒的なアドバンテージがあります。
これは間違いないです。
つまり経験者は有利なわけです。
そして医療事務においては未経験者と経験者には、明確なラインが引かれているとされています。
この言い方でわかるとおり、僕はそんなラインは意味ねえよって思っています。
たしかに働き始めてしばらくの間は、経験者の方が有利です。
まったく医療事務の実務を知らないまま現場に放り込まれて、その仕事内容を把握できる人なんかいません。
まずは保険請求事務とは何なのかを、イチから学んでいく必要があります。
その基礎が一番大事であり、また理解するのに時間がかかるところです。
ですのでその下地部分の理解がある人だと、かなりスムーズに業務に入っていくことができます。
ですがいってみればそこだけです。
アドバンテージって単にそこだけなのです。
これは普通に考えれば当たり前の話で、保険請求事務ってどこの医療機関でもやっていることは大枠では一緒です。
ですがそのやり方、ルール、職場思想がまったく同じところなんてまずありません。
ということは、どうやったってその職場の色に染まる必要があります。
こう書くとすごくマイナスな感じがしますが、多かれ少なかれその必要性はどんな職場にだってあります。
どんなに「自分はここの職場に新しい風を吹かせるんだ」と意気揚々のぞんだとしても、まったく染まらない人は浮いて終わりです。
その染まり具合のバランスが大事なのであって、その環境に上手く溶け込める経験者が最も効率的に力を発揮できる人です。
ですがそう上手くはいかないのです。
なぜなら新しい職場環境に溶け込むということは、その前の職場で身につけた経験、思想というものを棄却することにほかならないからです。
今まで積み上げた知識はそのままに、過去の経験はいったん置いておき、新たな経験を積み上げていくという姿勢が大事になるのです。
そして前職の経験が長ければ長いほど、そのような臨機応変さは生まれないのです。
どうしても今までの経験を大事にしてしまう。
それを棄却することは、過去の自分を否定してしまう行為と錯覚してしまうからです。
僕が医療事務で経験者を重要視しない理由がそこにあります。
先ほども述べたように、経験者と未経験者の違いは初速がスムーズかどうかだけです。
逆に言えば、初速期が終わってしまえば両者の違いなんてもうないのです。
かえって経験者の方が自分の過去の経験に縛られてしまい、一向に成長しないっていうことさえあります。
すでに大量の水を含んでしまったスポンジは、一度しぼりきって水を外に出してしまわないと新たな水は吸収できません。
それと同じで新たな経験を積み上げようとするのならば、しぼり出さないといけない経験があるということです。
しかし実際は、それがなかなかできないということです。
たしかに医療事務では経験がものをいう場面はいくつもあります。
ですがそれに寄りかかっているのであれば、新たなことは何も学べないということにもなるのです。
すべてはストック対応
経験値を貯めていることが大いに役立つのは、何かの問題にぶち当たったときです。
このとき過去に何の経験もしていないのと、一度でも経験していることは雲泥の差があります。
一度でも経験していれば、そのときの対処法がそのまま使えます。
そしてそのようなパターンの数が多ければ多いほど、ストックで対応できてしまうのです。
これはとても助かります。
なぜならムダに悩む必要がないからです。
たとえば点数表にない術式を請求する場合。
経験値がなければ、そもそも保険請求できるのかどうかから調べないといけません。
そして仮にそれが請求できるとして、どの点数で請求するのか、摘要欄にはどう書くか、症状詳記にはどう書くかなど、ありとあらゆることを調べていかないとなりません。
これが以前に同じ請求をしたことがあれば、もう考えるポイントが一切ないのです。
即解決となるわけです。
またあるいは、患者から入院費用についてクレームがあった場合でも、経験値があればそれを踏まえた対応が可能です。
まったく未経験なら、こう言えばこう返ってくるという予測すらつきません。
これらはすべて経験をストックとして問題解決に利用している例です。
つまり経験値をパターン化したストック対応です。
これができるのが経験者の強みです。
そして表面的に見れば、これは100%正しい利用方法にもうつります。
ですがこれが最大の強みであるのと同時に最大の弱みでもあるのです。
だったらその最大の弱みとは何か。
それは100%の再現性のある事象など起こらないということです。
つまり似たような事象にはなり得ても、決して同一にはならないということ。
だからパターン化はできないということです。
今起こっている問題に対して、過去に上手くいった対処法がそのまま使えることなんてないということです。
もし今までストック対応で上手くきているのであれば、それはホントにたまたまです。
そしてそれは100点の対応ではないのです。
及第点は取れているが、ベストチョイスだったかといえばそうではないのです。
さてこの場合何が一番問題かというと、経験におんぶにだっこという状態です。
つまりは思考停止な状態。
経験に頼ってはいいが、それがすべてになるとダメなのです。
たとえば前述した点数表にない術式を請求する例。
これなら100%同一もあり得るのでストック対応でいいのでは?と思うかもしれません。
ですが、それとて100%の再現性はないのです。
点数表にない術式という点で、すでに明確な定義なんてなくなっているのです。
そして疾患の状態も患者によって当然違う。
さらに過去のレセプト審査機関と今の審査機関ではその審査員が違う。
過去はOKだったが、今はNGなんてことも普通にあります。
この時点ですでにストックでは対応できないのです。
そしてこの対応が一番ダメなところは、このパターンだからコレという風な無思考即決対応となっていることです。
そこには思考のプロセスが一切ない。
自分のアタマで考えるという一番大事なところが、スッポリ抜け落ちているのです。
経験者有利ではないわけ
自分のアタマで考えるために、経験には頼るなとは言いません。
ある経験は有効に使った方がいい。
ですがそれを意志決定の代用とするのは避けるべきです。
最後は自分で答えを出す必要がある。
どんなに経験を積んでいても、どんなに過去に似たような事例があったとしても、目の前のできごとは初見であると認識すべきです。
ですが実際これらは、綺麗ごとかもしれません。
仕事においては少しでも問題を早く解決したい、ムダに悩みたくない、誰もがそう思います。
つまりできるだけ考えたくないのです。
たしかにムダに意志力は使わない方がいい、それは正しいです。
ですが、それはムダな意志力ではありません。
むしろ必要不可欠な意志力です。
しかしそう考える人はごくわずか。
結局みんな楽をしたいのです。
手持ちのカードでかたがつくようなら、何も考えずにカードを切りたいのです。
経験ですべて解決するなら、それが一番楽じゃんってことです。
ですが繰り返しますが、いくら楽であっても最後は自分のアタマで考えて答えを出す。
ここだけは譲ってはいけません。
まとめ
僕たちは経験の正しい使い方を知らないのかもしれません。
経験は積めば積むほど良い。
本当にそうなのでしょうか?
結局はマインドセットに左右されます。
積み上げた経験値によって何がダメなことなのかを判別できる、選択肢をしぼれる。
そういう使い方は有効です。
ですが選択肢をしぼるどころか、選択肢を決定するところまで突き進んでしまうと行きすぎです。
そうなると思考の余地が何もない。
そしてそれではストックは一切増えません。
類似したパターンがどんどん積む上がるだけのこと。
そのことによって自分の引き出しが増えることなどありません。
経験は諸刃の剣です。
そのことを知っていて使うのと知らずに使うのとでは、まったく意味あいが違うのです。
だからたとえ10年選手であっても100%経験依存の人には、その年数に見合うスキルは身についていないのです。
つまり、医療事務での経験者信仰なんて何の意味もないのです。
もしあなたの先輩が経験年数が長くて、何でもよく知っているなと感じていても有能かどうかは別問題です。
なぜならそれはすべて、ストック対応なのかもしれないからです。
その先輩は、パターンだけはよく知っている思考停止な人なのかもしれません。
経験したことは大事ですが、これから経験することも同じくらい大事。
重要なのはその活かし方です。
何も考えない10年選手より、自分のアタマで考える3年目の方がよっぽど有能ってこともあり得ることなのです。