先日政府は行政手続きの電子化を推進するデジタル・ガバメント閣僚会議を開きマイナンバーカードの普及策をまとめました。
この中で2022年度中にほぼ全ての医療機関でマイナンバーカードを健康保険証として使えるようにする目標を設定しました。
これらについては以前の記事で概要を書きました。
今回はマイナンバーカードの保険証機能やオンライン資格確認の事項はもちろんですが「マイナンバーカードの普及とマイナンバーカードの利活用の促進に関する方針」ということでいくつもの方針、対策案が示されています。
その中でもやはり医療機関側が注目するのはマイナンバーカードの保険証機能についてです。
今後の道のりや予測される事項などについて詳しく見ていきます。
目次
マイナンバーカードが保険証に
結論
医療機関としては業務の効率化、患者の利便性の向上という点では喜ばしいですが安全性の確保が1番気がかりです。
またオンライン資格確認が導入されることで医事課では確実に余剰人員が出ますのでどのような業務体制にしていくのかという将来像を考えていかねければなりません。
マイナンバーカード
全く普及していないマイナンバーカード
現在マイナンバーカードの交付実績は5月30日時点で約1702万枚にとどまっています。
これは全体のわずか13%にすぎません。
政府が決定した対策には「2022年度にほとんどの住民が保有していると想定する」と明記し3年後をメドに1億枚以上を普及させる方針となっています。
8月を目途に具体的な工程表を公表するとのことです。
普及策の切り札が保険証機能
普及策の柱の一つが健康保険証の代わりに医療関連のサービスで利用出来るようにすること、すなわちマイナンバーカードの保険証機能化です。
保険証は日常的に利用する人が多い為代用出来れば普及が進むと政府はみています。
他の普及策
マイナンバーカードについては保険証機能化のほかにも様々な案を掲げています。
例えば以下の事項です。
・医療費控除の手続きの簡素化。
確定申告する際に国税庁のサイトからマイナンバーカードで個人認証すればサイト上で医療費合計が確認出来る上そのまま申告も出来る。
・政府の運営サイト「マイナポータル」で様々な医療情報が閲覧可能になる。
2021年3月からは特定健康診査の情報、2021年10月からは過去の投薬履歴の閲覧を可能にする。
・電子マネー機能の搭載。
2020年度からはカードに電子マネーを貯めて買い物に使えるようにする。
カードを使って買い物をすれば国からポイントの還元が受けられる仕組みも導入する。
地方自治体が指定する小売店や通販サイトで利用可能となる。
早期にカードの取得申請をした人には還元率を割り増すことも検討する。
・カード申請の簡易化。
現在はカードを取得するには自治体の窓口に出向く必要があるが今後は企業やハローワーク、学校、郵便局、病院、介護施設などに自治体の職員が足を運びその場で申請を受け付け郵送で受け取れるようにする。
・国家公務員や地方公務員には2019年度中にカードを取得するよう促していく。
マイナンバーの議論とはもともと徴税側の論理から出てきたものです。
ですから政府は行政の効率化、国民の利便性の向上などを重点的に告知していますが税金を隅々から取りたいという本音もあるでしょう。
そんな政府の真の狙いを嫌悪する気持ちも分からなくもないですが利便性については圧倒的に高まると思われます。
少し話が横道にそれますが、マイナンバー制度が国民に不評で広まらないそもそもの原因の1つに日本独特の電子情報管理への嫌悪があるのだろうと思います。
今回の保険証機能がつくことに対してもかなりの反対意見があります。
セキュリティ面が不安、個人情報の漏洩が心配、政府に監視される社会になる、など否定意見はいくらでも出てきます。
そういった懸念材料があることも十分に分かります。
ですがそれによるメリットも多くある筈なのにデメリッばかりに焦点を当てるのは非常に損な考え方だと思います。
反対ありきで反対しているだけでは何の進歩もないのです。
バルト3国の1つにエストニア共和国という国があります。
1991年に旧ソ連から再独立し人口約130万人の小国ながら今やICT先進国として世界に知られ電子政府などにおいて先進的な取り組みを行っている国です。
エストニアでは法律により15歳以上の全国民がエストニア国民であること証明する国民IDカードを持つことが義務付けられていています。
このカードには日本のマイナンバーに相当する国民ID番号が記録されていてサービスを受ける際にこの番号を提示することが出来ます。
このIDカードを用いることにより電子署名や電子認証を行うことが出来る為インターネット上のサービスを安全に利用することが出来ます。
今では官民合わせて3000ものサービスをネット上で利用することが出来るようになっています。
ですので病院にかかる場合でも日本でなら保険証、診察券、薬局のカード、おくすり手帳などを用意する必要がありますが、エストニアの場合はカード1枚のみで済みます。
そしてカルテや薬歴情報が全ての病院や薬局で共有されているのですごく便利なのです。
医療機関をかわるたびに同じ説明をする必要もないのです。
しかしこれに対してもエストニアの総人口は沖縄県の人口とほぼ同じぐらいの規模で国レベルでは参考にならない、国民風土、文化が違うなどの否定意見も数多くあります。
それは確かにそうかもしれません。先ほども述べましたように日本の文化、日本人の考え方において電子情報社会への懸念が根深く残っていることは確かです。
しかししてもいないことへの不安ばかりがあおられて前向きな議論がなされないというのは国益を損なっている可能性もあることを忘れてはいけません。
国家としての規模が違うからエストニアのようには出来ないということではなくて自国に置き換えてみて取り入れられそうな部分はどこか、参考に出来ることは何かという視点を持つことが肝要なのです。
ここの議論は今回の主旨とは離れていきますのでこのあたりで止めておきます。
顔認証
病院を受診するときに顔認証による本人確認システムを導入する案が政府内で浮上しています。
これは他人によるカードの不正利用を防ぐにはとても有効です。
実現すれば病院の窓口に置くマイナンバーカードの読み取り機器にカメラ付きの顔認証システムを組み込むことになります。
検討されているシステムはカードに付いている顔写真を機器が取り込み、カメラに映った患者本人の顔と照合するというものです。
写真と画像が一致しないと判定すれば病院側が氏名、生年月日などで改めて本人確認をすることとなります。
これは患者本人がカードをかざすなどして情報を読み取らせ病院スタッフの手にはカードが渡らないようにする方針だということです。
これはマイナンバーが書かれたカードを保険証としてしまうことで医療機関側から取り扱いへの懸念を訴える声が出ている事への対策だということです。
どうしてもセキュリティ問題
マイナンバーへの情報機能の一元化は利便性という点ではとても有用ではありますがどういう議論であってもセキュリティ問題にぶち当たります。
結局1番懸念されるところはそこになります。
セキュリティを万全に出来るのか、個人情報保護がどの程度担保されるのかといったところは現時点では全く分かりません。
そもそもネット社会で万全なセキュリティなんてものは存在しませんがそれでもどのレベルまで持っていけるのかはとても重要な点で気になるところです。
今や医療機関に対するサイバー攻撃さえも特別なものではなくなってきています。
その中にあっていかに個人情報を守るのか、どういうシステム構築を行うのかが重要な課題となります。
まとめ
マイナンバーカードの活用方法については賛否が分かれるところですがそうはいっても保険証代用案はもう決定事項でありまもなく工程表も出てくることになります。
国の陰謀だ、反対だといってももう決まったことはくつがえることはありません。
だとするならばそれにならって進んでいくほかない訳です。
そしてそこで大事なことはその先を読むことです。
その未来から何が読み取れるかということです。
医事課に関して確実に言えることは過去の記事でも幾度となく書いていますが人が余ってくる、つまり人員が削減されてくるということです。
これはオンライン確認に限った話ではなく、レセプトのコンピュータチェック化、自動精算機導入など今後効率化の名のもとに医事課業務はどんどん簡略化されていきます。
これは止めようのない時代の流れです。
マンパワーで切り盛りしていた医事課の時代は終焉を迎えています。
しかし多くの医事課の人達はまだこのままが当分続くと思っています。
まだICTの波が医事課に来るとは思っていません。
ですが気がついたらその波に飲み込まれていたということにもなりかねないのです。
医事課の業務というのは今ちょうど転換点を迎えていると思います。
それは紙で行っていた業務がなくなっていくということであり、またITスキルが全くないままでは通用しないということを意味しています。
病院という所は社会機関の中でも特に保守的な所です。
ITに対しても1番鈍感な業種の1つだと思います。
しかしだからこそそこで頭1つ抜けるだけであなたの存在価値はとても高くなります。
5年後、10年後も医事課の仕事がしたいというのであれば今何をすべきかはおのずと見えてくるのではないでしょうか。
マイナンバーカードの保険証代用というニュースを見るだけでもその先の未来が予測出来、選ぶべき行動も見えるというぐらいの高感度のアンテナを常に張っておく必要があります。
ものの事象は1つでも見方、捉え方は変えられます。
情報はただ受け入れるのではなくそこから何を読み取るか、それが1番重要です。