PX(Patient Experience)と呼ばれるものがあります。
日本語にすると患者経験価値となります。
PXは民間企業で既に取り入れられているCX(Customer Experience)を医療現場に持ち込んだものです。
CXは商品やサービスを購入してから使用後のサポートに至るまでのプロセスに対して顧客がどういう価値を感じたのかを評価する指標です。
これを医療現場に導入し医療機関の顧客に相当する患者の経験を評価する指標がPXとなります。
今回はこのPXの中身と今後の展望について見ていきたいと思います。
目次
PXって何?【患者経験価値と患者満足度】
結論
PXの改善が病院評価を上げることになります。
ですのでこの先PX指標の導入が期待されています。
患者経験価値(Patient Experience)
PXとは?
Patient Experience とは患者体験のことを指しケアプロセスを通じて患者が経験する事象と定義されています。
PXは医療の質の構成要素である患者中心性を評価する手法のひとつであり患者の視点を測定可能なデータとして活用できます。
主語となるのは医療提供側ではなく患者であり評価の対象となるのは満足度ではなくプロセスとなります。
PSとは?
対してPS(Patient Satisfaction)<患者満足度>というものがあります。
医療機関が提供する医療の質はアウトカム・治療プロセス・医療安全などの臨床指標だけでは測れません。
提供している医療がどんなに優れていても医師や職員が高い知識や技術を持っていても利用者がその良さを実感出来なければ意味がありません。
その点において医療の質を高める為の患者満足度調査は医療機関にとってかかせないものとなっています。
PXとPS
従来多くの医療機関では医療サービスの質を測る指標としてPSを用いてきました。
PSを使った調査では医療サービスを受けた患者が結果的に満足したかを評価します。
たとえば「看護師の対応はどうでしたか?」と患者に尋ね「とても満足した」「満足した」「満足しなかった」という軸で評価してもらいます。
この調査では客観的な評価基準がない為、患者の気分や価値観に左右されやすくなります。
さらにどのサービスに対して満足したのかが分からず具体的な改善策を見出すことが難しいです。
一方PXに関する調査ではプロセスについて具体的に質問する為、医療サービスの実態を把握しやすくなります。
たとえば「ナースコールを鳴らしてから看護師が来るまで何分待ちましたか?」と患者に質問し「すぐに」「5分以内」「対応してもらえなかった」「ナースコールを使用していない」などの選択肢から答えてもらいます。
これによって客観的に患者のニーズに合った医療サービスが提供出来ているかを評価出来るようになります。
PXの考え方を医療現場に導入すると患者自身が考えるゴールを重視する為、患者が自らの価値を反映した医療サービスを受けることが出来ると期待されています。
患者満足度の問題点
上記をもう少し深堀りします。従来の患者満足度調査には問題点が3つあります。
1.目標設定が不明確
患者満足度調査では「1.大変満足」「2.やや満足」「3.普通」「4.やや不満」「5.不満」の中から選択してもらいます。
そしてたとえば大変満足が70%だったとします。
ですがはたしてこの結果から満足度が高いのか、低いのかという判断が不明確なのです。
大変満足とやや満足を足した割合が何パーセントであれば基準クリアと見るのか、その目標設定が非常にあいまいであり評価がしにくいのです。
2.患者の主観に大きく左右される
満足度とはいってみれば本人の主観を問うているものです。
ですので個人個人の主観に全てをゆだねている状態です。
全く同じ環境であっても満足と感じる患者もいれば不満と感じる患者も当然います。
その時の自分の体調、状況、気分で回答が大きく変わってしまうものなので回答の信頼性が担保出来ません。
病院としてはその結果が実態を反映しているとは言い切れないのです。
3.患者満足度調査ありき
患者満足度調査が定点観測として実施することが目的化している部分があります。
調査は定期的に行われているがはたしてそこから具体的な改善活動につながっているのかと言われればそうなっていないところが多分にあります。
PXサーベイ
実際現在の患者満足度調査の精度や有用性に疑問を持つ医療従事者は少なくありません。
疑問の多くは本当に患者満足度調査の結果が病院の改善活動に役立つのかということです。
そこで注目されて始めているのが患者経験価値調査(PXサーベイ)です。
PXサーベイは患者が実際にどのような場面で何を「経験」したのかという事実を重視し患者にとって必要な医療サービスが提供されているのかを確認して改善活動につなげることを目的としています。
患者満足度調査とPXサーベイを比較した場合、PXサーベイの方が病院の実態を的確に把握することができ、かつ改善行動にもつなげやすいとされています。
実際にPXサーベイは患者満足度調査との比較で約4.3倍も患者の主観を除いた純粋な医療・サービスレベルのフィードバックを取ることが可能であるとされています。
欧米の取り組み
PXの取り組みにいち早く着手したのはイギリスです。
1997年より医療制度改革の名の下に医療費の拡大や医療の質向上に取り組んだ際、これまでの「与えられる医療」から「参加型の医療」、すなわち患者中心に考える医療政策へと方向転換がなされました。
その中で患者の医療経験を調査し結果を公表することが決定されました。
この時開発された患者調査プログラムを原型として2002年には世界で初めて公的医療制度であるNHS(National Health Service;国民保険サービス)主導でPXサーベイが開始されました。
同年アメリカでも公的なPXサーベイ票の開発が進められていました。
2006年には、CMS(Centersfor Medicare & Medicaid Services;厚生省・公的医療保険センター)が主導となってHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems;エイチキャップス)と呼ばれるPXサーベイを実施しました。
PXサーベイのスコア結果が良好な病院には金銭的なインセンティブが発生するなど病院経営者にとっては軽視出来ない指標となっています。
現在日本ではこのHCAHPS導入待望論というのがあります。
PXの改善が病院評価を上げる
「PXと職員エンゲージメントが改善されると病院の評価と利益は上昇する」
(When Patient Experience and Employee Engagement Both Improve, Hospitals’ Ratings and Profits Climb
Nell W. BuhlmanThomas H. Lee, MD MAY 08, 2019
https://hbr.org/2019/05/when-patient-experience-and-employee-engagement-both-improve-hospitals-ratings-and-profits-climb)
という調査結果も出ておりPXの重要性というのは高まり続けています。
まとめ
患者満足度に加えて今回紹介したPX(患者経験価値)は今後耳にする機会が増えてくると思いますので覚えておいて損はありません。
そして患者満足度と患者経験価値をどう組み込み自院の評価につなげていくか、病院全体で考えていく必要がある大切なテーマです。