医事課は患者さんが医療機関で1番最初に接する部署であり、1番最後に接する部署でもあります。
よって受付時、会計時はもとより、診療時や検査時に起こったできごとに対しても意見や苦情を言ってくることは日常的にあります。
その中でも苦情では済まないようなクレームが出てくる場合も当然あるわけですが、そのようなことをいかに回避していくのか、どう対応していくべきなのか?
今回はその点にフォーカスします。
目次
【回避できる?!】仕事のクレーム・トラブル対応
結論
回避はできません。
それよりも組織の体制づくり、職員の教育が大切です。
ポイントは以下のとおりです。
・クレームや迷惑行為の担当者や対応体制を定めているか?
・何かあったときにすぐ相談できる専門家を確保しているか?
・クレームや迷惑行為への対応についての職員研修を行っているか?
・クレームや迷惑行為のリスク対策についての勉強会を実施しているか?
クレーム・トラブル対策
組織体制
大部分の患者さんはこちらとの意思疎通が可能なのですが、中には暴言や威圧的な態度の人もいます。
受付が女性だからといって余計に威圧的に出てくる場合もあります。
そのような場合、迅速かつ適切な初期対応が不可欠です。
そこを誤ってしまうと、より深刻なトラブルへと発展してしまいかねません。
そのためには組織としてきちんとした対応体制、役割分担を整えておくことが必須です。
初期対応としての十分な知識と経験をもった者を置いておくべきです。
また、院内全体でどのように連携体制をとるのかということは事前にしっかりと決めておく必要があります。
そして、相手が暴力的、威圧的な要求を繰りかえす場合は現場でとれる対応というのには限界があります。
クレーム対応に精通した職員が警察や弁護士とも連携していることを示し、内容証明郵便などを送付すればクレームがやむことも多いといいます。
ですのでそのような対応も事前に想定し用意しておくことが大切です。
理想はすべての職員がクレームの初期対応ができること、となるのですがそれはなかなな難しいかなとは思います。
となればやはり組織としての体制、役割分担を明確にしておくことが大切です。
職員教育
各医療機関ではクレーム対応、リスク対策についての研修や勉強会といったことをさまざま行われていることだとは思います。
ですがそれがしっかり浸透するまでに至っているでしょうか。
研修は受けたけど実際起こったとき対応できるかというと対応できない人の方が多いはずです。
前項でも述べましたが、理想はすべての職員がクレームの初期対応ができるようになることです。
ですがこれは1回研修を受けたぐらいではなかなか身につくようなことではありません。
1回きりの研修で終わらせることなく、継続的な研修・勉強会の実施が必要です。
そして何より職員1人1人が自分の課題として向き合わなければ、どだい習得などできるはずがありません。
クレーム、トラブル対応はリスク管理・対策として非常に重要だということをもっとわかってもらうアナウンス、アピールも必要なのです。
具体的対応・対策
具体的にはどのように対応すればいいのかは、本でもネットでもいろいろ情報が出ていますので参考にしてもらえればいいかと思います。
ここでは代表的なものをピックアップしておきます。
クレーム対応の基本
1.患者・家族の気持ちを思いやる
不快感を抱かせたこと、迷惑をかけたことに対しては誠実に謝罪
2.クレームと苦情を見分ける
事実関係を確認した上で患者側の被害、医療機関側の過失の有無を検討
3.詳細な記録とる
できるだけ詳細に記録する
4.怒りをエスカレートさせる行為は厳禁
苦情であっても誠実な対応でクレームに発展するリスクを抑える
5.会話を録音する準備を常にしておく
私人との会話の録音に特段の違法性はない
6.対応場所を選ぶ
対応するときは孤立しない場所、複数の職員で
7.対応法を事前に学んでおく
この中でも対応法を事前に学んでおく、というのは大切なことです。
これを知っているのと知っていないのとでは、その後の展開がまったく違ってくる場合もあります。
初期対応
クレーム対応はその内容の検証と相手への接し方の2つに分けて考える必要があります。
クレームといってもその種類はさまざまで、本人の思い込みや根拠のないことで言ってくることも少なくありません。
そうしたクレームでも最初の対応を間違ってトラブルへと発展してしまう場合も少なくありません。
まず「不愉快な思いをさせて申しわけございません」ときちんと謝ることが大切です。
これは「クレームに対してはまず謝るが、事実確認の前に過失を認めるような謝罪はしない」ということを知っておくことが重要です。
応召義務の影響
すべての患者トラブルは結局のところ、医師法および歯科医師法第19条の応召義務が影響していると言えます。
応召義務については以下に示します。
<参考>医師法(昭和23年法律第201号)(抄)
第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
「正当な事由」については、以下の行政解釈が示されています。
何が「正当な事由」であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきものと解される。
<本通知で「正当な事由」に該当しないとされた例>
・ 医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。
・ 診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。
・ 標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病の診療を求められた場合も、患者が了承する場合は一応正当な理由と認め得るが、了承せず診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。
「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られると解される。
これでいくと事実上診療ができないという場合以外は診療を拒むことはできない、ということです。
このことについては最近では、応召義務を拒める正当な事由の範囲の拡大がされてきつつあるということのようです。
すなわち、正当な事由の範囲の広がりが過去のいくつかの判例で確認でき患者側の暴言暴力によって医療機関と患者の信頼関係が破壊されている場合は診療を拒んでよいと解釈できる、とする場合があるようです。
しかし現実問題としてその線引きをどこにするかは微妙なところで非常にあいまいです。
どこからが暴言なのかということや、信頼関係の破壊をどの時点において判断するのかということは、患者側、医療機関側、第3者視点で見ると必ずずれてきます。
医療機関が診療を拒んでよいとした線があまりにも手前過ぎる可能性だってあります。
そういった面で応召義務の拡大解釈は医療機関側から見るとなかなか勇気のいることなのです。
知っていて損はないクレーム対応術
話を変えましてここではクレームが来たときにどのような対応をすべきなのかを紹介します。
シンプルにしますと次のとおりです。
1.謝罪
2.傾聴
3.事実確認
まず謝罪ですが、これは先程も出ましたが不愉快な思い、不快感を抱かせたことに対し謝るということです。
患者さんの言い分を認めることの謝罪ではありません。
次に傾聴です。
これが非常に重要です。
苦情、クレームがあった場合、最初の数分間は決して反論してはいけません。
これが大原則です。
傾聴のポイントは話し手の話す内容に
①口出ししない。評価しない。意見を言わない。
②ときどきうなずき理解を示す。
③聞いた内容が合っているか、また相手の感情を汲み取りそれを伝え返す。
ということです。
ただ単に話を聴き続けるというのではなく、なぜ不愉快なのか、原因が何であるのかということを汲み取る姿勢が大切です。
それができてはじめて話し合いのスタートラインに立てるのです。
クレームマニュアルはありますか?
マニュアルがないと職員がクレームについて個別に判断して対応することになります。
そうなると職員により対応に差が出てしまいますし、職員個人の負担も大きくなってしまいます。
よくあるクレーム事例については、医療機関としてのルールを整備しマニュアル化していくことが大切です。
マニュアル化を進めることで、全職員が同じ判断をすることができるようになります。
まとめ
クレームは宝の山だという考え方があります。
クレーム=苦情なのではなく、クレーム=フィードバックと考える方法論です。
これは正しくもあり、間違いでもあります。
少なくとも宝の部分も確かにありますが宝の山ではありません。
一般的に権利社会の風潮が顕著になってきている昨今において、こと医療機関においても患者の権利、主張は守られるべきものとことあるごとに言われています。
特に最近はちょっと何かあればパワハラだとがドクハラだとか、なんでもハラスメント扱いで言われる風潮です。
その中においてクレームもひとくくりにはできず、正当な主張から独りよがりな身勝手な主張まで幅広く存在します。
そのようなクレームの数々についてどう対処していくのか、どう事前に危険因子の芽を摘み取るのかは、もはや個人の手に負える範疇を超えています。
最初に言いましたように組織の体制づくり、職員の教育がとても重要です。
それはそのような対応についての知識を学ぶということももちろんですが、プラス職員の1人1人について組織はしっかりと守っている、ということの認識を持って貰うことも大切です。
その認識がなければ毅然とした対応もとりづらくなりますので。
院内の共通認識を高め、協力しあえる体制づくりを普段から心掛けることこそが基本であり、それがクレーム・トラブルに適切に対処できる土壌づくりに最も必要なことなのです。