この程厚生労働省の有識者検討会は妊婦が病院で診療を受けると自己負担が上乗せされる妊婦加算について、名称を変えたり一定の要件を設けたりして再開を検討すべきとする提言をまとめました。
これを受け今後は中医協にて議論がなされ2020年度診療報酬改定にて再開される見通しとなりました。
今回はこの妊婦加算再開について実際どうなんだという所を述べていきたいと思います。
目次
妊婦加算再開を考える
結論
妊婦加算はして良しですがその負担は医療費助成とすべきです。
妊婦加算
妊婦加算とは
妊婦加算は2018年度診療報酬改定にて新設された初・再診料に上乗せする加算(初診で750円、再診で380円が加わります。本人負担は3割の場合は初診230円、再診110円)のことをいいます。
まずはこの加算が新設された経緯を知っておく必要があります。
まず、妊婦への医療提供に当たっては母体だけでなく胎児も含めた特別な配慮が必要となります。
たとえば医薬品を投与する際にこの医薬品には催奇形性はないか、胎児毒性はないかといった点を考慮しなければなりません。
また妊婦では尿路感染症が合併する頻度が高く虫垂炎や伝染性紅斑の診断が困難であるといった特徴があります。
こうした特徴・特性への配慮は医療機関が当然行わなければならないことではあるものの、医療機関の労力に対して適切な評価がなされないといけません。
さもなければ妊婦への十分な医療提供が阻害される可能性もあるからです。
この為妊婦の外来管理に対する評価を検討してはどうか、という厚労省の提案から生まれたのが妊婦加算です。
要するに妊婦への診察には配慮が必要なのでそれに対する加算を新設しましたという訳なのです。
導入の背景
実は導入を求めてきたのは産婦人科医が主体だったと言われています。
働く女性の増加などで妊娠・出産の高年齢化が進み、合併症や早産、胎児の低体重などの問題が増えていてリスクを伴う診療が増えてきています。
そのような中で妊娠中の女性が風邪などで産婦人科以外の科を受診しようとすると産婦人科で診てもらって下さいと言われる、手間だからとか適切な薬や診療方法を調べる時間がないからといった医師の都合でうちでは無理だから専門医に診てもらって下さいと言われる。
そうして全てが結局産婦人科医の所に回ってきてしまい負担がのしかかる現実。
それを軽減する為にも産婦人科以外の所でも受け入れてもらえる体制、制度作りを要望していたといいます。
一時凍結
「皮膚科に行ったら、妊婦加算がついた。なんで余分にとられるのか」
「コンタクトレンズの処方箋にも妊婦加算があった」
昨年9月以降ツイッターに寄せられた投稿をきっかけに妊婦加算は大きな問題となりその結果国は一時凍結という対応をとり現在に至っています。
失敗の原因
2点あります。
1.議論されていない
中医協で妊婦加算の導入が協議されたのは2017年の10月でした。
ですが当時は地域のかかりつけ医の利用促進やオンラインによる診療の制度などの重点的に議論しないといけない案件が他に多くありそれに隠れるようにして妊婦加算には全く関心が集まりませんでした。
結果、厚労省も認めていますが妊婦加算についてはほとんど議論になりませんでした。
2.周知されていない
そもそも診療報酬改定時に妊婦加算の新設について知っているのは国と医療機関関係者ぐらいというレベルでした。
国からの事前アナウンス等はほぼないような状態で一般の人は誰も知らないような状況でした。
厚生労働省が制度に関するリーフレットを作成したのはツイッターで騒ぎになったあとの去年の11月です。
本来加算出来ない診療にも加算していた例も報告され、患者側だけでなく医療機関側にも周知と理解が不十分だったことが露呈したのでした。
妊婦加算再開の是非
多数意見
今回の妊婦加算再開のニュースについてツイッター等での意見はざっと見た所8,9割の人達は断固反対というものです。
少子化対策とは真逆の行為、子供は3人産めと言い、消費税は上げる、年金はもたないから2000万貯めてね、児童手当は減額するよ、検診は自費だよ、保育園は足らないよ、妊婦加算は再開するよ、って日本国ムチャクチャだろっていう意見が多く見られます。
これはおっしゃるとおり同意します。
このような意見の中に次のようなものもありました。
妊婦の診察には配慮が必要という理由で妊婦加算を作るなら、高齢者加算も作らないとおかしいでしょ、というものです。
確かに高齢者には加齢、腎肝機能低下、転倒リスク、多剤併用、副作用リスク、生活機能低下などがあり診察には十分な配慮が必要です。
ですがそのような加算は生まれません。
なぜか?高齢者の加算だからです。
どういうことかというと現在の日本の政治状況においては高齢者を優遇する措置はあり得ても不利になることはしないからです。
だって高齢者は選挙に行くからです。
すなわち政治家が選挙で当選する為には選挙に行く高齢者が反対する政策をとる筈がないのです。
逆にいくら子供を産む若い世代が反対しようとも選挙結果にほぼ影響しない世代なので聞く耳持たずなのです。
そういう意味では現在SNS上で反対している若い世代の人達は積極的に選挙に行かないといけないのです。
いくら文句を言った所で現状は変わりません。
ぜひ行動して頂きたいなと思います。
少数意見
話は少しそれましたが本題に戻ります。
先程の多数意見に対して妊婦加算再開容認派の人達ももちろんいます。
赤ちゃんの為にきちんと診てもらう為の手数料と思えばいい、安全に産む為の真っ当な医療費だと思う、というような意見です。
これも素晴らしい意見だと思います。
そしてそう理解してくれているのならば本来の妊婦加算の創設意義も果たされることでしょう。
ですがこのような意見はかなり少数派です。
それぞれの生活状況、立場、バックボーンは様々なのでいろんな意見があっていいと思います。
大事なことは自分の意見を持つということだと思います。
メディアが言っているからとか周りの意見がこうだからというのは関係ありません。
自分がどう思うのか、どう判断するのか、そこが大切です。
その為には出来る限りバイアスのない情報に触れることが必要です。
その取捨選択を常に行う必要があります。なかなか難しいですが。
何が最善なのか?
2020年度診療報酬改定にて妊婦加算が再開されるのはほぼ間違いないでしょう。
ただし、その名称や算定要件は現状とは変更してくると思われます。
今回の「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会 議論の取りまとめ(案)」の中の「妊産婦に対する診療の評価等の在り方について」には次のように書かれています。
「単に妊婦を診療したのみで加算されるといった、前回と同様の妊婦加算がそのままの形で再開することは適当でないと考えられる。(中略)今後、妊産婦への診療に対する評価に当たり必要と考えられる具体的な要件や名称等については、中央社会保険医療協議会で議論されるよう期待する。」
「また、妊産婦が健診以外で医療機関を受診した際の負担については、これから子どもをほしいと思う人にとって、ディスインセンティブとならないようにすることが必要であり、他の受診者との均衡や政策効果といった点を勘案し、引き続き検討すべきである。」
今後は提言を踏まえ中医協で具体策を検討していくことになります。
そして加算分を妊婦の自己負担とするか、公費で助成するかは今後検討されることとなります。
まとめ
妊婦加算自体を反対という人達も多くいますが私は加算自体には賛成です。
その主旨も十分理解出来ます。
問題なのは負担を誰が負うのかという1点だと思います。
冒頭で述べましたようにそれは公費でまかなうべきだと思います。
たとえ一旦窓口で支払わなければならないとなったとしても医療費助成にて返還すればいい話です。
現状でも乳幼児加算というものがあります。
これは診療内容に関わらず乳児、幼児であればつく加算なのですがこれを反対という人はいません。
なぜならそれらは小児医療費助成が行われているからです。
加算はされていても患者の負担にはなっていないのです。
だったら妊婦加算も同じ方策をとればいいのではないのでしょうか。
これは私個人の意見ですので様々な意見があると思います。
今後おおいに議論されればいいと思います。
大事なことは国がしっかり国民に説明し理解を得るということと、私達国民も常に国の議論にアンテナをはり、高い情報リテラシーを保つということです。
今後どうように中医協で議論されていくのか注目して見ていきたいと思います。