もういろんなブログやツイッターで語られている話題ではありますが医療機関に勤める者としては非常に考えされられる話ですので今回述べていきたいと思います。
ごまお
目次
【公立・公的病院・次は民間も】再編要請リストのその先【地域医療構想】
結論
大局的な視点が必要です。
概要
リスト公表
9月26日に開催された「地域医療構想に関するワーキンググループ」にて厚労省は全国の公立・公的病院のうち再編・統合の議論が必要と判断した424病院について具体名を公表。
また、今後民間病院のデータも公表される予定となっています。
ごまお
分析・抽出
ワーキングでは、急性期医療に関する診療実績データ(病床機能報告データ)を詳細に分析し、次のような(1)診療実績が特に少ない公立・公的病院等(2)類似の機能を持つ病院が近接している公立・公的病院を抽出。
これらの公立・公的病院について役割は適切か、民間で代替可能なのではないか、病床規模は適切かなどを検討する必要があります。
具体的対応方針の再検証を要請する病院
(1)診療実績が特に少ない公立・公的病院等がん・心疾患・脳卒中・救急・小児・周産期・災害・へき地・研修・派遣機能―の9領域すべてで、地域における診療実績が下位3分の1の病院
(2)類似の機能を持つ病院が近接している公立・公的病院(人口100万人以上の地域医療構想区域にある病院については、別途、再検証方針等を定める)自動車で20分以内の距離にがん・心疾患・脳卒中・救急・小児・周産期の6領域すべてで「診療実績が類似する病院」がある病院
ワーキング構成員は再検証スケジュールを考慮すればダウンサイジングが中心になると見通しており合併や統廃合がなされるケースは極めて限られると見ています。
スケジュール
ワーキングでは
・再編統合が必要な場合には2020年9月までに個別病院・構想区域で結論を得る
・再編統合が不要な場合には、2020年3月までに結論を得る
というスケジュール予定としています。
再編要請とは?
再編統合というと病院の統廃合ととらえられがちですが、それだけでなく病床のダウンサイジングや機能分化・連携・集約化なども含まれます。
地域に求められる医療を質が高く効率的な形で不足なく提供するためにどのような対応が必要か、再編統合も視野に議論を進めてほしい、という主旨であると厚労省はしています。
また、行政として再編統合を強制するものではないともしています。
ですので要請を破棄したところで罰則規定もありません。
今回のこの要請が実際どれほどの影響力を及ぼすのかは今のところ未定といったところでしょうか。
ごまお
公表
公表の真意
国が再編や統合の議論が必要な公立・公的病院などを公表するのは今回が初めてでありきわめて異例です。
再編や統合の議論を進めようとする背景には主に地方の病院で深刻化する医師や看護師不足があります。
病院の再編や統合によって集約化をはかることができ、医療の質を担保できるとしています。
また過剰なベッド数を削減していきたいという考えもあります。
国は2025年に必要なベッド数を現在の124万床より5万床少ない119万床としていてベッド数を削減するためにも病院の再編や統合を進めたい考えです。
さらに公立病院の中には赤字経営に苦しむところも多く自治体からの繰入金は総額で年間8000億円に上っています。
国は再編統合を進めることでこうした繰入金の削減にもつなげていきたいとしています。
公表の注意点
今回厚生労働省は2017年度の実績をもとに再編や統合の議論が必要な病院を選定しています。
このため公表された病院の中にはすでに再編や統合をしていたり名称が変わっているところも含まれるとのことです。
公立・公的病院改革
公立病院・公的病院の改革が優先されているのはそれらが補助金や税負担などで手厚い優遇措置を受けているからです。
特に公立病院では自治体など他会計からの繰入金がありさらに法人税(国税)や事業税(地方税)なども非課税です。
こうした公立病院の役割が優遇措置のない民間病院では担えない分野にはたして重点化されているのか、そうでなければ残し続けるわけにはいかないというのは至極当たり前の考えです。
たとえ公立・公的病院と民間病院が同じ機能同じ実績であったとしても片方は赤字でも補てんされる、もう片方はつぶれるとなればそれらを同列に比べることがおかしいのです。
公立・公的病院の機能の重点化の議論を先行させるのは当然なのです。
[pdf-embedder url=”https://ijikano.com/wp-content/uploads/2019/10/税.pdf”]地域医療構想
今回の異例の病院名公表はなかなか進まない地域医療構想の協議に厚労省が業を煮やした結果なのでしょう。
そしてその地域医療構想の協議にも問題点があります。1つは政治的側面です。
公立病院の経営トップである首長(県知事、市長村長)の意向によって公立病院のあり方が左右され地域の関係者間での合意事項が変更されるケースがあるといいます。
この公立病院のガバナンスは大きな問題です。
また表面的な調整会議という側面もあります。
改革が大事とは分かってはいるが1番手で名乗りをあげて突き進むのはリスクがありすぎるとして当面は様子見に回るということです。
この対応をそれぞれの病院がとってしまうと一切進まなくなってしまいます。
議題が病床機能報告の結果報告や病床の削減や機能転換の方針を決めた病院からの報告に終始し中身のある調整ではなく単なる報告会になりがちだというような意見もあります。
調整会議の活性化、それが目的の9割
地域医療構想に関するワーキンググループの構成員である日本医師会副会長の中川俊男氏は9月28日の第61回全日本病院学会のシンポジウムにて
調整会議の議論を活性化する、それが目的の9割だと思っている。
424病院が発表されたからといって大変だと危機感を醸成してはいけない
と注意をうながしました。
まさしく現在「再編統合」という言葉だけがひとり歩きしている感はぬぐえずリストの病院がなくなる、といったような間違った見方ばかりが先行している感じがします。
感情論は不要
今回の公表があって以来さまざまな意見が出ていますが予期せぬ病院名公表のショックもあり地方自治体から大手メディア、そして住民レベルまで拒否反応はかなりあります。
これはさきほども述べたように再編統合という言葉から病院がなくなってしまうというイメージが強くついていることと、現場を知らないくせにデータだけで決めんじゃねえという思いが強いのでしょう。
確かに厚労省の医療政策の進め方が下手なことは確かだと思います。
ですがだからといって今回の件について感情論で述べている意見の多くは野党の政治家やメディアの誘導に乗せられている部分もあるのではないかと思います。
少なくともそれらは確かなおのれのメリットのためだけに発信しています。
政治家は支持率を上げるため、メディアは売らんがため。
そこには日本の未来をみすえた深い洞察やビジョンなんてものはありません。
まして自分と関係ない地域のためにホントに損得勘定抜きで発信している人なんてほとんどいません。
今回の件を拙速、思慮が足りないと言うことはたやすいです。
ですがだったら42兆円にまでふくれあがった医療費に対してほかにどんな方法があるというのでしょうか。
人口減少、高齢化社会に対して抜本的な対策を示せるのでしょうか。
現在8000あまりある病院の数は明らかに多いです。
今後高齢化が進むといっても人口は下降していきます。
確実に病床数は過剰になります。
そしてその供給体制はアンバランスなままです。
一刻も早く実情にあわせた供給体制を築く必要があります。
そして現在の病院経営はとても厳しいです。
その中でも自治体立病院は繰入金を含めなければ9割が赤字で繰入金を含めても6割が赤字です。
今回公表されたリストを確認すると病床稼働率が50%、60%台なんていう病院もあります。
民間病院ならつぶれています。
それでも公立病院が存続し続けるとしたらこれはもう許されません。
「公立病院は、民間病院が担えない過疎地域の医療、産科・小児科、救急医療を担っている。
だから住民も公立病院を必死で守ってきた。
なくなれば住み続けられなくなる地域も多い。」
こういう意見もありますがこういう意見が根強く残ってきたからこそ今この現状なのではないでしょうか。
もう抜本的に変えていかなければ立ちゆかなくなっているのです。
もう地方の医療は崩解してきています。
それは昔からずっと前述の意見のようなことを主張してきたからです。
残念ですが繰入金を含めても赤字の病院は再編されてやむなしだと思います。
それに対する「地方を切り捨てる気か」という主張はまたズレていると思います。
それぞれは別々に切り分けて考える問題です。
そもそも赤字の病院をもたせるだけの体力はもう日本にはありません。
やっぱりみんなどこか他人ごとなのです。
国の借金が1100兆円を超えていて、日銀は国債を買い続け、株式市場では日本株の最大株主になろうとしています。
そしてその出口戦略はきわめて困難な見通しです。
ですが私たちの多くは危機感を持っていません。
だから「地方を切り捨てる気か」なんて悠長なことを言っていられるのです。
はっきりいってこのまま進めば日本は詰みます。
いやもう詰んでるんじゃという人もいるかもしれませんが。
医療費の削減にはもっと突っ込んでいかないといけない危機的局面です。
たしかに自分が住む近くの病院がなくなれば不便になる、困るという思いがあるのは分かります。
ですがそこにばかり注目しているともっと大事な判断を見誤ります。
もっと大局的に見る目も大切なんじゃないでしょうか。
まとめ
前述の日本医師会副会長の中川俊男氏はこう言っています。
近い将来、全国のほとんどの構想区域で病床が間違いなく余る。
調整会議で自主的にあるべき姿に収れんするのが地域医療構想の仕組みだ。
民間病院が公立・公的医療機関等よりも先に消えてしまう可能性があるため、公立・公的医療機関等が本来の役割を担っているかを検証すべきと厚労省に提案して今日に至る。
社会保障財源や国の財政を考えると8000億円を投入している現状を踏まえれば民間病院で代替可能な場合、公立・公的医療機関等が引くというのは普通の発想ではないか
近々民間病院のリストも公表されるということでそこからが本当の再編検討議論の開始となります。
調整会議の活性化、そして公立病院の経営トップである首長が必ず改革を進めるといった強い信念でのぞんでくれることを願っています。
ごまお