救急医療係数と救急医療管理加算【分析と対応】

DPCの機能評価係数Ⅱには救急医療係数なるものがあります。

また、診療報酬には救急医療管理加算があります。

その名のとおり救急医療を評価する目的であるのですが医療機関からすると非常にやっかいな存在です。

やっかいというと語弊があるかもしれませんが中身を全て理解した上で100%プラス活用する為には相当大変だということです。

今回はその点について解説していきます。

救急医療係数と救急医療管理加算

結論

結局必要なことは救急応需体制の充実です。

救急医療係数

救急医療係数とは

DPC病院においてその収益は医療機関別係数に大きく左右されます。

現在は

①基礎係数

②激変緩和係数

③機能評価係数Ⅰ

④機能評価係数Ⅱ

の合計が医療機関別係数となっており、救急医療係数は④機能評価係数Ⅱにある6つの係数のうちの1つです。

もともと救急医療係数は救急医療入院の経済的損失を補填する目的があります。

たとえば脳梗塞で入院する場合、救急車で搬送されてくるケースと症状が落ちついた後に別の病院から来るケースでは入院初日の治療は全く異なってきます。

救急を受け入れる病院ではDPCでのまるめ算定にもかかわらず初日の検査費用が大きくならざるを得なくなります。

そうした費用負担がない病院と同じDPCでの点数であるならば明らかに不公平となります。

ですので

救急医療係数で後からコストの補填はするので抑制なく患者にとって必要な医療、検査は行って下さいね

という意味あいがあります。

そしてそこで、救急医療入院後の2日間の出来高点数と包括点数の差分を計算して1症例当たりの指数を算出し係数財源を割り当てて補正したものが救急医療係数となります。

計算対象は、救急医療入院の患者でかつ救急医療管理加算、救命救急入院料、特定集中治療室管理料、ハイケアユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料、小児特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、総合周産期特定集中治療室管理料のいずれかを入院初日から算定している患者です。

救急医療管理加算の基準を満たしていない施設は救急医療入院の患者が対象となります。

救急車搬送

医師から救急車搬送台数が多いのに救急医療係数が思ったほど高くないのはなぜ?という質問を受ける場合があります。

 

これは救急医療係数の計算方法を読めば分かるのですが要するに救急車搬送台数をベースに計算している訳ではないからです。

上記にあった計算対象に対してのみ該当しますので、

たとえ救急車で来院してもそれらの診療報酬の算定対象外の入院患者や外来受診のみで帰宅した患者は該当となりません。

その一方でウォークインの外来患者でも症状が重くて緊急入院となり該当する診療報酬点数を算定した場合は救急医療係数の計算対象となります。

救急医療係数の定義

定義には救急医療入院患者について

1症例当たり「入院後2日間までの包括範囲出来高点数(出来高診療実績)」と「診断群分類点数表の設定点数」との差額の総和

となっています。

ですので大事なことは行った診療行為を漏れなく請求に上げることです。

いくら頑張って医療行為を行い医療資源を投じていてもEFファイルに反映されていなければ係数向上にはつながりません。

その意味では医療職と事務職が一丸となりまた連携を怠らない努力が必要不可欠なのです。

救急医療管理加算

救急医療管理加算とは

緊急に入院を必要とする重症患者に対して救急医療が行われた場合に入院した日から起算して7日に限り算定できる加算となっています。

当初は点数設定は1つだけでしたが現在は救急医療管理加算1、2の2種類があります。

加算1(900点/日で7日限度)は次のアからケの9項目に指定された重症者の状態が条件になっています。

 

加算2(300点/日で7日限度)はこれらの状態に準ずる状態という条件の下、算定が可能となります。

 

救急医療管理加算1の対象になる状態

 

ア 吐血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態

 

イ 意識障害又は昏睡

 

ウ 呼吸不全又は心不全で重篤な状態

 

エ 急性薬物中毒

 

オ ショック

 

カ 重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)

 

キ 広範囲熱傷

 

ク 外傷、破傷風等で重篤な状態

 

ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態

いずれも算定期間中に常時これらの重症な状態である必要はありません。

入院時に既にこれらの重篤な状態にあることが絶対条件となります。

グレーな救急医療管理加算

救急医療管理加算は緊急入院を必要とする重症患者であって診療報酬点数表に定められた状態であれば算定出来るとされています。

ですがその解釈は医療機関で様々です。

そして各都道府県の審査機関においても様々です。

加算1では「ク 外傷」の定義が明確にはありません。

ですので医療機関によってはかなり軽めの外傷であっても加算をとるケースもあります。

その場合当然審査で引っかかる時もあれば通る時もあります。

また、となりの県ではOKなのにうちではダメみたいなこともあります。

はたまた再審査請求をしたら認められたなんてこともあり、もはやカオスな状態です。

加算2では順ずる状態という解釈がまた各医療機関、審査機関で違っているので本当の正解がどのラインなのかがとても分かりづらいです。

今後中医協がこの2種類の加算をどうしていくのか非常に気がかりではありますが、

医療機関としては査定されるからといって算定を控えるというスタンスではなくて積極的に算定する姿勢はとり続ける必要があります。

その為には院内での解釈、運用の統一、再審査請求への積極的な取り組みが必須です。

算定の過少も過剰もなくせるような体制の整備が必要です。

救急医療係数と救急医療管理加算の関係

救急医療係数と救急医療管理加算についてはこれまでいろいろな検証が行われてきていますが、1つ言えることは救急医療係数は1床当たり救急医療管理加算の算定割合と正の相関が見られるということです。

 

更に救急搬送された患者でも救急医療管理加算を算定するような重篤な入院患者が多い病院ほど係数は高くなる傾向があります。

 

つまり簡単に言うと救急医療管理加算の算定件数を増やせば係数は上がってくることになります。

まとめ

上記で延べた通り救急医療管理加算の算定件数を増やせば救急医療係数を上げることは理論上可能な訳です。

だったらそうすればいいんじゃないかと思いますがそんなに簡単ではありません。

簡単に考えるのならば今まで算定していなかった患者にまで救急医療管理加算の算定要件を拡大解釈してしまえば件数は増やせます。

 

そしてもっと言えば係数の計算はEFファイルのデータを元に行いますので、過剰算定で査定されたとしても関係ないのです。

 

EFファイル提出時点にさえ算定として入っていればいい訳です。

そう考えると査定前提でも算定している方が係数アップに有利というおかしなことになってしまいます。

これでは本来の救急医療管理加算の主旨とはかけ離れた姿になってしまいます。

本来の救急医療係数アップへの方策とはたった1点で救急応需体制の充実な訳です。

拡大解釈で算定するのではなく、本来の意味する重篤な患者を自院に搬送してもらう体制を築くことこそが正解であり取り組むべきことなのです。

だから簡単ではないのです。

これは診療と事務が協力して先の展望を見通した上で戦略を立て、それを実行して初めて成果となって表れます。

機能評価係数Ⅱのうちで自助努力で係数を上げていけると言われているのは効率性係数とこの救急医療係数です。

ですがそもそも将来的に機能評価係数Ⅱが現在の6つのままかというとそうとも限りません。

現に前回の診療報酬改定では後発医薬品係数と重症度係数がなくなりました。

いろんな記事を読んでいると将来的には効率性係数1本だけでいいという有識者の方もいますし、はたして今後どうなっていくのかは全然分かりません。

ただ現状は今ある制度にのっとって正しいとされる道を進むことがベターなのであってそれが医療としての正義にもなるはずです。

であるのならば救急応需体制の充実により注力して地域医療に貢献していくという当たり前の結論に行き着きます。

医事課としてやるべきことは要因の分析と戦略の立案、そして院内全体を巻き込みつつあるべき目標へ導いていくことです。

これはとても大変で苦労の多いことですがだからこそ大変やりがいのある仕事でもあります。

医事課は院内全体を動かす風を生み出すことも出来るし、それによる変化を現場でじかに感じることも出来るし、結果を数字として明確に把握することも出来ます。

そういう意味では医療経営のど真ん中にいるのです。

そこで経験を積むことは確実に自分のスキルアップにつながります。

救急医療係数や救急医療管理加算なんて入院係じゃないから知らない、知らなくていい、それでは成長はないのです。

逆に全く知らないから知ることがプラスになるのです。

入院係は今回の内容は当たり前のこととして知っているのでこのことについては伸びしろはないのです。

知らない人が知るからこそ成長なのです。

そういう意味ではジョブローテーションが最も成長する方法だと思います。

このことについては別の機会に述べたいと思います。

話を戻しますがDPCは入院の肝、係数はDPCの肝です。

その中でも効率性係数と並んで救急医療係数は重要な位置を占めています。

係数に詳しい人材が多ければ多いほどいろんな知恵が生まれやすいと思います。

そんな土壌づくりも大切なんじゃないでしょうか。

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