医療事務のキャリアアップを考える【スキルと経験とキャリアラダー】

現在医療機関が歩んでいる道のりは非常に険しいものとなっています。

高齢化社会、医療費の増加、財政問題等社会保障の問題が山積みの中、診療報酬マイナス改定、地域医療構想など医療機関に要求される内容は厳しさを増しています。

そのような状況のもと今後も継続的に医療サービスを提供していくことができるような戦略的経営が必要不可欠となっています。

そしてだからこそ単に診療報酬請求や診療情報管理ができるだけでなくより高度な知識、技能を持った事務職員の確保が現場から渇望されています。

その影響もあり医療経営士等の医療経営マネジメントに関する資格を目指す職員も増えてきている状況です。

医療事務員が医療経営士の資格を取得することにメリットはあるのか?

今後さまざまな働き、活躍が期待されることになっていきますが、そもそも自分は何を目指したらいいんだ、どういうキャリアップ像を想像したらいいのかよくわからないという人も多いかもしれません。

今回は医療事務のスキルと経験とキャリアラダーという点をからめた上でキャリアアップについて述べていきます。

医療事務のキャリアアップを考える

 

結論

ジョブローテーションとスキルの掛け合わせが重要です。

キャリアアップ論

キャリアラダー

キャリアラダーとはキャリアとラダーを掛け合わせた単語です。

キャリアは経歴という意味でラダーははしごという意味です。

キャリアラダーは会社で働く従業員がはしごを順々に登るようにキャリアアップできるようにした人事制度、能力開発のシステムのことを指します。

はしごの1つ1つのステップに仕事内容、スキル、目標が定義されキャリアアップしていくことを目指します。

またキャリアラダーとよく似た用語にキャリアパスという言葉があります。

キャリアパスは企業内での職務や職責にどのような経験を積みどのようなルートでキャリアアップしていくかを示した道筋を指しています。

双方ともキャリアアップのためのものである点では同じですがキャリアパスは職種そのものも変更していく一方、キャリアラダーは特定の職種を専門職としてその技能を高めていくために設定されるものという点で異なります。

キャリアラダーのメリット

キャリアラダー制度を導入すると組織内でどのようにしてキャリアアップしていくのかということをそれぞれの職種ごとに明確に示すことになります。

働いている人にとっては自分のキャリアを開発していく上で明確なキャリアステップが提示されているので良い目安となります。

キャリアラダー制度では同一職種内で求められる能力や技能が各階層ごとに示されています。

キャリアアップする際にはきちんとした指標があるのでキャリアラダーは公平性が高い制度です。

キャリアラダー制度のもとでは自分の進むべきキャリアの階層がわかると、次にステップアップするためにどのようなことが必要なのかということがわかりやすく、ステップアップのための道筋を立てやすくなります。

よって従業員の中でも主体的に能力開発を行うような環境を作ることができます。

人材育成を行うための大切な要素である本人の意欲を高めることができるのもメリットです。

キャリアラダーとはもともとアメリカで生まれた制度ですが今では日本の企業でも様々な所で活用されています。

また看護職ではクリニカルラダーという形で使われており、医療事務においても東京慈恵会医科大学附属病院本院では新人からスペシャルメディカルリーダーに至るまでの7つのレベル設定でのキャリアラダー制度が導入されています。

キャリアラダー制度はキャリアを階層化することによってキャリアアップの道筋を段階的に明示するような人事制度としての活用が広まってきています。

今後は医療事務業界でも取り入れていくところも増えてくるのではないかと思います。

キャリアップの為に必要なもの

キャリアップするとはすなわち成長するということです。

スペシャリストでもゼネラリストでも自己成長した結果がキャリアップということになります。

ここで大事なことは自己成長させるためには2つのことが必要です。

その2つとはスキルと経験です。

1.スキル

ひとことで医療事務、病院事務といってもその範囲はかなり広いです。

大きく分けるだけでも窓口業務、診療報酬請求、診療情報管理、医師事務作業補助、経営企画等さまざまです。

それぞれの業務にはそこ特有のスキルが存在します。例えば、接遇、レセプト、コーディング、文書作成、統計処理、DPC分析、情報システム管理など専門知識がないと対応できない分野が数多く存在します。

スキルに対するとらえ方は人それぞれでつねに新しい知識を貪欲に追い求める人、1つの分野に特化して深い知識を求める人、資格取得に励む人、現状維持で満足な人などいろんなパターンがあります。

そもそもスキルは一定の意欲と一定の地頭があれば一定のレベルは習得できます。

現状維持に甘んじる人でなければある程度のスキルアップはできていくものです。

ですがスペシャリストを目指すのならばそこを突き抜けていかなければいけませんし、またゼネラリストを目指すのならば複数のスキル習得が必要です。

どちらにも言えることはスキルアップイコール自己成長という関係はどんな場合も必要だということです。

働いている限りつねにスキルアップを目指さなければ成長は止まってしまうということです。

2.経験

医療事務は経験重視ということはよく聞きます。

これはその通りで経験者を求めている欲求度でいくと医療事務業界はかなり上のランクになると思います。

これについての大きな要因として医療事務の業務特性があります。

さきほども言ったように医療事務の業務範囲はかなり広く、それでいて対象が患者、審査機関、保険者、院内他部門と多岐に渡ります。

悠長に1つ1つ完璧にこなしていくことなどほぼ不可能です。

ですのでスピード感が大事、完了主義が必須なわけです。

完璧を目指すよりまず終わらせろ【医事課の仕事は完了主義】

そんな中現場で十分な教育、OJTが行えているところというのはそんなに多くないのではないでしょうか。

教えたいけど手が回らない、目の前のことをこなしていくだけで精一杯という現場であればなにはともあれ来てほしいのは経験者ということです。

それほど医療事務においては経験というものは重要視されます。

ですが実際のところ経験者が募集で来ることはそう多くはありません。

さらにこちらが求めている条件の経験者はほぼ来ません。

診療情報管理の経験者がほしいところに外来レセプト経験者であったり、入院係の経験者がほしいところに診療科受付の経験者であったりというのはよくあります。

大きなくくりで見ると医療事務の経験はある訳で医療機関の仕事がどういうものかを知っているということはいいことです。

ですがそこにはたいしたアドバンテージはありません。

それなら未経験者と大差ない状態からのスタートとなります。

ですので医療事務は経験重視とは言われますがそれは正確にはその業務の経験重視なのです。

違う業務ならばイチから教育していくことになるので変なバイアスが入っていない分未経験者の方が教えやすいなんてことも十分あります。

そう考えると医療事務の経験は広くしておいた方があとあと有利になることが多いと思います。

そういう意味ではゼネラリストを育成するためにも医事課全体の底上げをするにも最強の手法はジョブローテーションとなります。

それも入院係の担当病棟のローテーションというようなレベルではなく窓口業務、外来係、入院係、診療情報管理、経営分析等すべての業務を横断的に行うジョブローテーションがベストです。

実際そこまで行っているところは多くないです。

ですがキャリアアップのための経験と考えるならばそこまでする必要がありますし、その効果は十分に期待できます。

スキルと経験、この2つの側面を併せ持ってこそ本当のキャリアアップにつながります。

スキル

スペシャリストとゼネラリスト

成長にはスキルと経験の2軸を上げていくことが必要なのは上で述べたとおりです。

ではそのためには自分自身の今後の方向性を明確に打ち出しておくことが大切です。

医療事務においてよく上がる論点にスペシャリストかゼネラリストか問題というのがあります。

どちらを目指すかによって得られるであろうスキルと経験はかなり違ってきます。

結論から言えばどちらもありとなりますが私個人の見解はスペシャリストなスキルをいくつか持ったゼネラリストが理想です。

これまでの事務職のスキルアップのあり方は医事課や総務課などの各課をローテーションさせてゼネラルな視点を養うというよりは、特定領域に秀でたスペシャリストになるというのが一般的でした。

医事課では新人からレセプト業務一筋でキャリアを歩んできた職人のような人が活躍し、総務課では元MRや元銀行員など異業種から参入した即戦力の職員が強みを発揮するという状況が多く見られてきました。

ですが今後はその両方を併せ持った人材が最も求められる人材となります。

つまり医事も総務も分かる事務職や医事も経理も分かる事務職などです。

機能分化と地域連携が推進される現在の経営環境では診療報酬体系の理解、地域医療機関との関係構築、介護事業との連携など、医事、総務を横断した知識を持って経営改革を断行してくれる人材が必要となっています。

医事課員においても単にレセプトの誤請求、請求漏れに気づけるというだけでなくデータをもとに自院の状況を分析した上で他ののスタッフを巻き込んで経営改善につなげられる人材が最も求められる人材です。

つまりスペシャリスト要素があるゼネラリストが最強病院事務職員であると言えます。

これは一般的に総合職と呼ばれる人が1番近いかと思いますが別に普通の医療事務員でも目指せるポジションです。

スキルを掛け合わせる

大事なのは複数のスペシャリストスキルの習得とゼネラリスト視点習得のための経験です。

そしてスキルに関しては2つ以上を掛け合わせるということが重要です。

要は○○が分かる(できる)△△というポジションです。

ITがわかる医療事務、経営がわかる医療事務、経理がわかる医療事務、組織マネジメントができる医療事務、英語が話せる医療事務。

どれにも言えることは掛け合わせることで一気に希少価値が高まるということです。

職場で周りを見渡しても上記のような人材はなかなかいないはずです。

だからこそ目指すべきです。

たった1つのスキルを極めていくことはとても素晴らしいことですが周りから頭1つ抜けるにはそれ相応の努力を要します。

ましてたとえばレセプトスキルで言うと将来的にはコンピュータチェックが大部分を占めることがもう分かっているわけで、そこの能力値を上げるメリットは昔ほど高くありません。

そして何よりそのような人材はある一定数いるわけです。

言い方をかえると代わりは十分いるのです。

その状況下で自分の市場価値を高めていくことはとても難しいということです。

しかしそれを2つ以上持ち合わせていると状況は一変します。

まず他人と競合しないことで非常に高い市場価値を得られます。

またものごとに対する視野がとても広くなります。

目の前で起こっていることだけではなくもっと俯瞰して見通せるようになります。

たったもう1つスキルを追加するだけで自分の価値を高めることができ、アウトプットの質も量も高めることできます。

スキルを掛け合わせることの効果は絶大なのです。

まとめ

 

最強医療事務員になるためのポイントは以下のとおりです。

・2つ以上のスキルを掛け合わせる

 

・ジョブローテーションにより、さまざまな現場経験を積む

たったこれだけでも一般的な医療事務員とはまったく違った別の職種へと生まれ変わります。

そしてそのような人材こそが今後必要とされる人材です。

ぜひ目指してください。

最後にスキルの掛け合わせについておすすめと思うものをあげておきます。

・医療事務 × プログラミング

 

・医療事務 × 経理(簿記等)

 

・医療事務 × 組織マネジメント

 

・医療事務 × 英語

 

・医療事務 × システム情報管理

どれも簡単に習得できるものではありませんが、だからこそ挑戦しがいがあるのです。

ぜひ何かひとつ挑戦してみてください。

新しい景色がそこには広がっているはずです。

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