長らく医事課で働いていますとそもそも論を忘れがちになります。
つまり本来の医事課の目的、役割は何かということです。
そして医療事務という仕事の本質はどこにあり、将来に向かってどのような働き方を目指せばいいのかということです。
今回は医事課の役割とその中での職員のあるべき姿について述べていきます。
目次
医事課の目的と役割【医事課の仕事】
結論
病院収入の最大化の為にあらゆるスキルを高めていく必要があります。
それはレセプトスキル、コミュニケーションスキルなど様々です。
そして今後必須なのが変化に対処するスキルです。
医事課
知っている前提ですが少し医事課の説明をしておきます。
病院経営を担う部署
病院収入は医事課によって請求される診療報酬が大半を占めます。
レセプトの請求漏れ、返戻、減点、施設基準届出など医事課業務が病院収入に直結しています。
医事課組織が脆弱であれば病院経営にも響いてきます。
医事課職員は病院経営を担う重要部署にいることを意識し専門性を高めていくことが肝要です。
医事課は病院の顔
患者さんが来院された際最初と最後に接するのが医事課職員です。
医事課の対応が病院の対応と見なされることは多いです。
常に医事課は病院の顔であるということをしっかり意識し接遇の向上に努めていく必要があります。
委託化のメリット・デメリット
医事課といってもその形態は様々です。
全て自前の病院、一部委託、派遣でまかなっている病院、全面委託の病院。現在医事業務の委託率は約35%だということです。
委託化にはメリットとデメリットの両方があります。
メリット
・人件費の抑制
・職員採用活動の手間の省略
・業務分担による効率化
デメリット
・習得した知識やスキルが病院の財産として残らない
病院で業務を行う中で受付窓口で保険、公費の知識を習得しても委託職員が入れ替わることによって病院の財産としては残りません。
・委託職員のレベルの不均衡
病院事務経験が浅かったり、もしくは全くない人が配属される場合が出て来ます。
人員補充は委託会社任せとなるのでこちらが想定している配置、業務運用とずれてくる場合が出て来ます。
・病院に対する帰属意識が薄い
病院に所属しているという意識は薄いため自ら問題点を見つけ改善していこうという姿勢はどうしても病院職員よりも弱くなります。
医事課職員の専門性と視点
事務部門には医事をはじめ労務、経理、人事、情報管理など様々な専門性が必要とされます。
その中でも医事は病院経営を担う重要な専門分野です。医事業務の専門性の視点では保険・公費の知識、保険請求、施設基準などレセプト業務に必要な知識をしっかり習得する必要があります。
診療報酬が右肩上がりのイケイケの頃はこれで十分でした。
しかし医療費削減、超高齢者社会に向けてマイナス改定が続いていく中ではこれらの専門性はあくまで土台にすぎません。
ただ決められた点数を請求しているだけでは病院の運営は苦しくなる一方です。
そこには医療制度改革に沿って適切な経営改革、業務改善を進めていくという視点がないといけないのです。
医療事務という専門的なスキルとは別に経営改革、業務改善につながる提案力、問題解決能力を磨いていく必要があります。
医事課の役割
医事課の最大の目的は病院収入の最大化です。
そのために行うべきことは次の3点です。
①医療費請求の適切化、最大化
病院の収入の大部分が診療報酬による収入です。
ここの正確性が病院経営を大きく左右します。
医事課として請求能力が低いと病院経営にも悪影響を及ぼします。
そして収益の最大化と言っていますが正確性が最重要です。
過剰請求でも過小請求でも病院経営には悪影響です。
過小請求はいわずもがなですが過剰請求はもっとダメです。
減点や返戻で一時的な指摘で終わればいいですが過剰請求を行う病院とか請求能力が低い医事課の病院というレッテルをはられてしまうとそれをくつがえすのは簡単ではありません。
そうなると常に厳しいレセプト審査をしいられ請求した全てが収入として入ってこないということにもなりかねません。
そうならない為にはレセプトのプロフェッショナル集団でなければならないのです。
個人としても部署としても継続的なスキルアップは必須です。
②ホスピタリティ力の強化
具体的には接遇力の向上です。
医事課が病院の顔ととらえられている場面が非常に多いのでこの部分の底上げが患者満足度の向上にもつながり、ひいては病院運営に良い影響をもたらします。
③組織の中継地点、潤滑油
医療事務って知らない人からすると診療行為をお金にかえる事務業務でレセプト、文書などの書類相手に格闘するというイメージだと思います。
それも間違いではありませんが書類相手に格闘しているだけではありません。
むしろそれよりも時間をとるのは対ヒトです。
患者さんに対する説明や連絡ももちろんですが、他部署との円滑なコミュニケーションが必要不可欠です。
診療行為をお金にかえる為には医療の知識も必要ですし、そしてなにより院内での運用方法やその現場での認識というのを理解しておかなくてはなりません。
検査部門では請求できていると思っていた検査が診療報酬上とれませんでした、というのはありがちな話です。
ですがその場合に検査部門は算定していて当然と思っていて、医事課では算定できなくて当然と思っている場合があります。
このとき足らないのがコミュニケーションです。
お互いの思いが一方通行のままずっと来ていといたというようなことも起こり得るのです。
この弊害は大きくて請求の適切化、最大化に沿えない可能性だってありますし、なにより医事課への信頼感が低下します。
そうすると何が1番困るかというと他部署を巻き込んでの経営改革、業務改善が困難になるのです。
前述したとおり医事課には医療事務という専門的なスキルとは別に経営改革、業務改善につながる提案力、問題解決能力を磨いていく必要があります。
しかしこれは医事課単体では何も出来ません。
医事課はこの課単体で何かを生み出していく性質のものではありません。
それこそ院内のあらゆる部署のアウトプットの中継地点、調整役、潤滑油なのです。
事務職には間違いないですがコミュニケーションスキルの向上もまた必須です。
ジョブローテーション
マンパワーという言い方をよくしますが昔は単純にマンパワーでなんとかなっていた部分はありました。
ひととおりレセプト業務ができる人員をそろえておけば確実に収入があるという時代もありました。
ですがそれでは今後はジリ貧になります。
受け身のスペシャリストでは収益を叩き出せなくなります。
必要なのは攻めるゼネラリストです。
診療報酬請求のスペシャリストでありつつも経営戦略、企画立案ができる人材や診療報酬のスペシャリストでありつつもITスキルも高くレセプト業務の生産性を上げることができる人材などです。
実際こういった人材を育てるのは相当大変です。
個人の意識の問題もありますがそれよりも組織のシステム的な問題の方が大きいと思います。
そこを解決していくためにはジョブローテーションが1番です。⇒⇒⇒医療事務のキャリアアップを考える【スキルと経験とキャリアラダー】
ですが中小のギリギリの人数で回しているところではそれもままならない状況でしょう。
それでもジョブローテーションはしていくべきです。
1度に完全に次の業務に行かなくとも部分的なジョブローテだけでも取り入れるべきです。
1番怖いのはその担当者しか分からない業務が存在することです。
そうならない為にも全員がどこの担当でもできるというのが究極形ではあります。
かなり難しいことですができるところからはじめていくべきでしょう。
まとめ
いくら請求業務に関するスキルを高めていってもAI・ICT化の波には勝てません。
どこかの時点で必ず飲み込まれます。
つまりAIにとって代わられてしまうということです。⇒⇒⇒医療事務の将来性とは?
単純作業や計算作業の業務が残り続けることはありません。
ですが人間にしかできない業務は残り続けます。
それは課題解決や経営、接遇の分野です。
しかし逆に言えばレセプト点検業務などは完全にコンピューター化します。
なのでレセプト点検しかできない人であれば職を失うことになります。
ここで先ほどのジョブローテーションが関係します。
ほかの業務もできる人であるならばレセプト業務がなくなっても何の影響もないのです。
そのまま医事課で働けます。
ですがレセプトしかできないとかたくなに続けてきた職人のような人ではもう生き残っていけないのです。
このような話をすると大多数の人がはるか未来の他人事として聞いています。
実際にレセプト業務が完全コンピューター化するのはまだ先だとは思います。
しかしそういう主旨ではないのです。
そのことだけを言っているのではないのです。
すでにAI・ICT化は進んできています。
そしてシステムというのは普及しだすと一気に広まります。
現在対面で行っている受付業務でも半分がAIになるとその分の人工(ニンク)はいらなくなるのです。
その時に余剰人員とならない為には何かしらのスキルを担保しておかなければいけないのです。
現実に保険証のオンライン化はまもなく始まります。⇒⇒⇒マイナンバーカードが保険証に【利便性と安全性とその先】
これが定着するとそこの受付担当者はいらなくなる訳です。
その時自分の価値をどこに見出すかという話です。
確実に言えることは今までの10年とこれからの10年では全く違う業務体系になるということです。
過去の前例に沿った仕事のやり方では通用しなくなります。
というか中身が違ってくるので参考にさえできなくなると思います。
では何のスキルを持っていれば安心なのか。
安心なスキルなんてありません。
言ってみれば医事関係の資格は全てAIでまかなえてしまいます。
ですので先ほども述べたとおり人間にしかできない業務にしか市場価値は残らなくなります。
ただ現時点で持っているべきスキルも存在します。
それは変化に対処するスキルです。
それにはそもそも変化を受け入れるマインドが必要です。
どうせ変化は訪れるのです。
どんなに嫌でも医事課の業務は変化していきます。
その時まで待った上で外側からの圧力で変わらざるをえないという選択をするのか、自らその変化に飛び込んでいくのか、選ぶのは自分です。
楽な方を選びたいのならば前者じゃなくて後者です。
仕事はやらされるのが1番きついのは皆さん知っているはずです。
だったら自分からやる方が良くないですか。
変化に対処するスキルは身につけておくべきです。