もうどこの医療機関もコロナ対応一色となっています。
未曾有のこの事態、先行き不明の中、現場の職員は日々刻々と変わる状況になんとか対応すべく一生懸命働いています。
しかしながら外来患者、入院患者は明らかに減ってきており、今後を考えると病院経営はかなり厳しい局面に入っていきます。
ただでさえ利益が出にくいとされるこの業種。
コロナ以前においても全体の約6割が赤字だとされていました。
公立病院においては自治体からの繰入金がなければ実質それ以上が赤字経営です。
そもそも利益が出にくい構造である病院経営において、更に今回のこの事態。
公立・公的病院の再編統合対象440病院の対応を待つまでもなく、再編統合していかないと立ち行かなくなるところは間違いなく出てきます。

今回はそういう病院事情の中、この先の夏、冬のボーナスについて私見ではありますが述べていきます。
目次
【NG】ボーナスは下げるな!すべてが下がるぞ【賞与とモチベーション】
結論
お金が浮くメリットよりも職員のモチベが落ちるデメリットの方がはるかに大きいです。
ボーナスの効果
モチベを上げる効果はない
報酬と動機づけに対して下記の実験結果があります。
実験内容
子供に自由時間に絵を描いてもらう
子供は以下の3つのグループに分けられ、条件を付与された。
グループ1:絵を描いた後、あらかじめ賞がもらえることがわかっている。
グループ2:絵を描いた後、賞がもらえることは知らないが、賞を付与される。
グループ3:絵を描いた後、何ももらえない。
実験から数週間後に再度子供に用紙とペンを渡したところ、結果は以下のようになった。
結果
グループ1:子供は絵に対する興味を大幅に失い、絵を描く時間が大幅に減少。
グループ2:やや上昇。
グループ3:ほぼ変化なし。
結果としてあらかじめ賞がもらえることがわかっていたグループ1のみ、子供に悪い変化が表れました。
つまり、「報酬」を与えたことで、「遊び」が「義務的な仕事」に変質したということです。
これは私たち大人でも同じことが言えます。
すなわちボーナスがあらかじめ出るものだと明示されている状態であれば、それは長期的にみれば決してモチベが上がる要因とはならない、ということです。
確かに支給された瞬間は一時的にモチベは上がります。
ですがそれはあくまで一時的なもの。
人は予定調和な収入、評価には慣れてしまうのです。
だからぶらさがり社員、ぶらさがり職員なんてものが生まれてきてしまうのです。
必死に働いても働かなくても給料は同じ、だったら一生懸命やるだけムダ。
残念ですがそんな職員は実際多いです。
特に病院はそういう風潮が強い。
どうしても保守的、閉鎖的な傾向が強い組織。
多くの部門が存在しそれぞれがそれぞれの利益を主張する全体構造。

そこでエンゲージメントを高めていこうと言ってもそれはなかなか難しい問題なのです。

結局、各個人、各部門が自分たちの意義、使命感を見出し行動した成果の集合体が病院全体の成果となって表れているに過ぎないのです。
そこにお金は長期的に影響を与えているわけではないのです。
つまるところ給料、ボーナスを第一手段として中長期的に職員のモチベーションを維持させることなんて不可能なのです。
しかしこれはあくまでモチベを上げる効果はないという話だけです。
逆は大アリなのです。
下げる効果はめちゃめちゃあるというわけです。
いくらキレイごとを言っても人生お金です。
それがないと始まらない。
ただでさえ給料が少ない医療事務員にとってボーナスの増減は死活問題です。
医療事務員は給料が少ない、これからどうしていくべきか、ということは以前に書きました。


結局自分の市場価値を知り、付加価値をつけていくほかないのですが、そんなものがなくても低いながらも安定的に給料、賞与があるというのが医療事務、病院事務職員のメリットでした。
ですが今回の一件でその前提さえも崩れかねない状況です。
集患ができない、手術ができない、入院患者が減少・・・。
これがこの先も続くと唯一医療機関が持っていた強みの安定的な収入というものが得られなくなります。
まだこの数ヶ月ならなんとかなるのです。
秋にはもう通常運営に戻りますというのであれば。
しかしそんなことはないのです。
少なくともこの先1年はこの状況は変わらない、というかもっと悪化する。
そしておそらく1年では終わらない。
下手をすれば数年単位での長期化も覚悟しておかなくてはいけない。
そうなればもう持ちこたえられる医療機関というのは本当に限られてきます。
当院のような中小弱小医療機関では体力が持たない。
ここはホントに国の本腰を入れた支援、援助というものが不可欠になります。
この点は国レベルの大きな問題であり私ごときが何を言ってもムダですのでここでは置いておきます。
モチベを下げる効果は大
話を戻します。
今回私が言いたいことは、この時期、状況だからこそボーナスは下げてはダメだ、ということです。
先ほども言ったように今後どんどん病院の収入というのは減ってきます。
だからといって病院というところは、おいそれと人件費削減という手は使えません。
そんなことをすれば施設基準を満たせなくなり、更に入院料がダウン、結果更に収入がダウンという負のスパイラルに突入していくからです。
収益は下がるのに、固定費は下げられない。
ここに病院経営の苦悩があります。
そうなるとどうにか下げられる費用を削っていくことになります。
そして真っ先に考慮に入ってくるのがボーナス(賞与)です。
ボーナスは経営状態がいい場合は上がり、悪ければ下がる、それはわかります。
ですが今のこの状況下でそれをやってしまうとやはり負のスパイラルに入ってしまうと思うのです。
今現場の職員たちを支えているものって何なのでしょうか。
それは突き詰めると責任感と使命感なのではないでしょうか。
誰が好んで感染リスクの高い職場に行きたいでしょうか。
常に自分がもうすでに感染しているかもという疑念も持ちつつ、家族にうつしてはいけないと注意もしなくてはいけない。
そこには非常に大きなストレスがかかっています。
そしてそんな職場には危険手当なんてものもない。
診療報酬で臨時的にカバーするという状況にはなりつつありますが、それはあくまでコロナウイルス確定患者対応への措置。
単なる熱発、単なるコロナウイルス疑い患者対応まではカバーしてくれない。
そして現実はほとんどがそのような患者ばかり。
もう遅かれ早かれ指定医療機関でなくてもコロナウイルス患者を受け入れなくてはいけないという状況はやって来ます。
そうなった場合、責任感や使命感ではもう持ちこたえられません。
事務仕事のはずなのに命を張るのか。
これはもう大げさでもなんでもないのです。
これは私が悲観的に見すぎているのでしょうか。
そうではないはずです。
今はまだみんなどこか人ごと。
そんな人は多いです。
それこそ地方の病院なら首都圏に比べればそんなに患者は多くはないわけで、それほど実感がない人も多いはずです。
ですが5月6日が過ぎたところで事態は何も変わらない。
むしろ悪くなる一方。
そうなればいずれ地方でも現在の首都圏のような状況が訪れ、医療崩壊が進む可能性は大いにある。
そうならないように施策を打つのが国の役目ですが今の感じだと何も期待できない。
そしてなにより現場がないがしろです。
みんな言いたいことは山ほどある。
なんとか我慢している。
でも現場の善意、頑張りで今はなんとか持ちこたえられていても、それもどこかで限界が来ます。
そしてボーナスを減らすという行為は病院経営の視点では正しいのかもしれませんが、その限界点を早めるだけの行為になってしまうのではないか、そう思うのです。
どうしてもボーナス減、ボーナスカットしないといけない、そういう状況はいずれ出てくる可能性は高い。
でも今じゃないだろう、それが率直な感想です。
お金は浮いたが職員全体のモチベが落ちた、エンゲージメントが下がった、ではいずれジリ貧なのです。
経営陣は現場のモチベを甘く見ないことです。
急場をしのぐという状況ではすでにないのです。
まとめ
ボーナスを下げると職員のモチベーションが下がる、エンゲージメントが下がる、これは確実です。
いやそんなことはないという医療機関があればそれは素晴らしいことです。
でもそんなところはそう多くはないはずです。
それくらいやっぱりボーナスの影響って大きいです。
ここまで書いてきましたが当院でもこの夏、冬の賞与がどうなるのかはまったくわかりません。
仮にボーナスカットされたとして次々と辞めていくのかといえばそんなこともないと思います。
この状況下で転職すること自体が難しい。
もう八方塞がりにも思えますが、そんなこともないと思います。
外に出られないからこそ自宅で学習する時間が持てる。
自己研鑽に励める。
ボーナスが減ろうがカットされようがそれは自分ではどうにもできないこと。
だったら今自分ができることは何なのかを考え、粛々と進めていくことこそが光ある将来に繋がります。
こんな状況だからこそ改めて自分としっかり向き合いましょう。
嘆いていても事態は何も良くならないです。
1ミリでも行動すること。
そこにしか突破口はないです。
ごまお